日産自動車が最終赤字に転落し、1999年に仏ルノーに救済されて以来の経営危機に陥っている。日産はコロナショックと経営混乱のダブルパンチで巨額のリストラ原資が必要となっているのだが、メインバンクのみずほ銀行を筆頭に主力4行で融資を押し付け合うという醜い争いになっている。特集『銀行vsコロナ』(全12回)の#9では、日産向けの巨額融資を巡る銀行間の葛藤に迫った(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
仏ルノーによる救済以来の20年ぶりの危機
信用力低下の払拭に躍起な日産
「(日産自動車は)危機に対応するには十分な資金を保有している。未使用のコミットメントライン(融資枠)の確保に加えて、新型コロナウイルス対応のために7126億円に上る資金調達を実行した」。
内田誠・日産社長はそう強い口調で言い放った。サプライヤー(自動車部品メーカー)や取引先企業にくすぶる日産に対する信用不安を払拭するには、経営者自らが力強いメッセージを発信することが大事だということで、虚勢を張るより仕方なかったのかもしれない。
5月28日に発表された日産の2020年3月期通期決算は、営業損失405億円、当期純損失6712億円となった。最終赤字に転落するのは09年3月期以来、11年ぶりのことだ。赤字幅の大きさでいえば、1999年に仏ルノーによる救済が決まった直後の00年3月期以来の経営危機である。
日産の信用力は急速に低下している。昨秋には、西川廣人・元日産社長の報酬不正疑惑に端を発するガバナンス問題から、2500億円の社債発行が延期となった(この5月に社債の発行枠を登録)。
ゴーン元会長が失脚した18年11月以降、アライアンスを組むルノーとの確執が深刻化したり、経営陣の権力争いが起こったりと、長らく経営の混乱が続いていたところに、コロナショックが襲った。業績悪化を理由に、格付け会社のムーディーズ・ジャパンとS&Pグローバル・レーティングがそろって日産の格付けを引き下げている。
決算会見では、内田社長ら経営陣の強気な発言が目立った。「日産のポテンシャルはこんなものではない」「構造改革をやり遂げれば成長軌道へ乗せることができる」「必ずキャッシュフローをポジティブに改善できる」──。
その自信の根拠の一つが「絶対に日産を支える」という取引先銀行による強力なバックアップ体制にあることは間違いなかった。7000億円を超える緊急融資の実行はその姿勢を裏付けるはずだった。
だが実際には、融資を巡る内情はそんなに甘いものではなかった。28日夕刻の決算会見が終わってから、ある金融筋はため息混じりに言った。「まだ、三菱UFJ銀行は融資金額にコミットしていない」。内田社長が「実行した」と過去形で言い切った資金調達の最終調整はこれからだったようなのだ。
何故、日産と金融機関の見解に微妙な食い違いが生じてしまったのか。