新型コロナウイルスを封じ込めるための外出自粛などによって、これまで日本が過度に依存していた自動車産業が大打撃を食らっている。銀行は、すでに資金繰りが厳しくなっている飲食業や観光業にばかり目が行っている状態だが、実は自動車部品業界はより深く、複雑な問題に直面しており、今まさに異次元の変革期に突入しようとしているところだ。特集『銀行vsコロナ』の番外編では、自動車部品メーカーについて、銀行が「すぐには倒れない」と楽観視してはいられない理由を紐解く。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
20~30%を引き取ってもらえない
日産で横行する「仮受注」の衝撃
「注文内示」「仮発注」――。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になってきた3月頃から、日産自動車の下請け企業(サプライヤー)には、日産の購買担当者からこんな“謎”の発注メールが続々と届くようになった。
「内示」「仮」の言葉が表すように、これは正式発注ではない。「とりあえず押さえで発注しておきますが、発注内容は確定的ではありません」という、何とも無責任な代物だ。
だからといって、サプライヤーはこうした依頼をむげにするわけにはいかない。依頼通りに造っていなかったがために、万が一、日産の工場のラインが止まろうものなら、補償責任を負わされるのが目に見えているからだ。
しかし、である。案の定ともいうべきか、日産はこうした依頼の全量を引き取っていない。「造らせるだけ造らせておいて、平気で取り消しの連絡を入れてくるんだよ。20~30%くらいは引き取ってもらえていない。ひどいもんだよ」。日産サプライヤー幹部は嘆く。
こんなことをしていては、倒産してしまうサプライヤーが出かねない。外出自粛などによって自動車販売は激減しており、サプライヤーによっては足元でも売り上げが半分以上吹き飛んだままなのだ。
「国の補助金や新たな借り入れによって、従業員の給料だけは何とか支払おうと必死にもがいている」(自動車部品業界関係者)という状況の中で、作った分だけ支払いがされないのだとすれば、資金繰りに与える影響は甚大だろう。当然だが、部品は材料などに資金を投じて初めて出来上がるのであり、“タダ”で作れるものではないからだ。