なぜビジネスパーソンから
熱い支持を受けているのか?

――中学校の美術の授業が、実用書というか、ビジネス書になって出版されるに到った経緯にはとても興味があるんですが、実際にはどういう流れだったんですか?

末永 自分なりの「新しい美術の授業」をつくっているとき、家では夫にも授業の話をよくしていたんです。

 ちなみに、夫は私とはまるで違うタイプで、経済学部経営学科出身のいわゆる“ビジネスパーソン”です。もちろん絵を描くことはありませんし、美術にもまったく興味がありませんでした。

 夫自身、かつては両親に連れられて美術館へ行くこともあったらしいのですが、「自分には関係ない世界」という感じで、とてもつまらなかったそうです。

――ビジネスパーソンのなかにはそういう人も多いと思いますね。

末永 でも、私が授業についていろいろと相談しているうちに、すごく変わってきたんです。自分で現代アートの本を買うようになり、私よりも詳しくなっている部分もあったりして。

 それで、あるとき夫が「君の授業は子どもだけじゃなくて、大人とか、ビジネスパーソンとか、それこそ自分みたいに左脳タイプの人も絶対楽しめるよ」と言ってくれたんです。「本にしてみれば?」と最初に言ってくれたのも夫で、それで私も「じゃあ、書いてみようかな」とその気にさせられたのがきっかけですね。その後、夫の知人を介して出版社の方をご紹介いただいたというのが、出版までの経緯です。

 しかし、実際に本になってみると、夫のようなビジネスパーソンというか、ビジネス領域の人たちにすごく受け入れられて、正直、とても不思議な感じがしています

仕事がつまらない人に共通する「うまい絵を描かなきゃいけない」という呪縛

――末永さんは「不思議」とおっしゃいますが、この本がビジネスパーソンに強烈に支持されるのは、とても理解できます。いまという時代「アートが大事」「アート思考を持たなければいけない」というメッセージは世の中にあふれているんですが、「そもそもアート思考って何?」「どうやって身につけるの?」という部分に踏み込んだものは、残念ながらあまりありません。そんな「ぽっかり空いていた穴」を、末永さんの本が埋めてくれた感覚を多くの人が持っているのだと思います。

末永 それはすごくうれしいことです。もともとは中学生向けに考えた美術の授業ですし、本にしても、ビジネスパーソンに向けて書いたという意識はなかったので、反応の大きさには驚きました

 SNSやメールなどでも多くの方から感想をいただくのですが、それらを読んでいていちばんおもしろいのは、「現代アートの正しい鑑賞法がわかりました」というコメントではなく、自分の具体的な生活とか、仕事とか、生き方とか、ものの見方に当てはめて考えたり、感じたりしてくれている人がとても多いということです。

■実際の感想

「常識や正解にとらわれず、自分の愛する事をもとに、世界をみつめて、答えを出すアート思考。かっちかちの僕の頭にも取り入れていきたい
「いままではあまり考えなくても、決まっている正しい方法を、誰よりも早く覚えて、エラーなく素早く行うことで、簡単に評価を得ることができました。テクノロジーが導入されて『5年前にがんばっていたことの多くはいらないことに……』ということも目の当たりにするこの頃です。仕事においてもまずは『自分のものの見方ができること』を目指したいなと考えています」
「不確実性の高い世界になりつつある現代に、自分が生まれた意味は、自分の興味のタネを見逃さず、探究の根を伸ばし続ける事だとやっと気づきました。自由でいていいんだ。と肩の荷が降りた気分です』
「目の前にあるものを自分なりに観察し、感じたことの理由や、そう感じたからなんなのかを考える。そうやって、自分の考え方、感じ方を知ることができる。そんなことを教わった」
「アート思考と聞くと、美術に関わる人の考え方なのかと思ってしまうが、そうではなくて、アート思考とは、探究思考であると、この本を読んで思った」