デジタル金融革命の時代が到来した。テクノロジーの進化によって新しいサービス技術が登場したことで、金融機関は新たなビジネスモデルの構築を迫られている。キーワードはオープンイノベーション。金融、流通、医療というように分断されてきた業種単位のシステムインフラは、金融サービスを軸に連携し、新しい形態への進化を猛スピードで遂げつつある。

顧客ニーズが高度化し
金融機関の自前主義は限界に

編集部(以下青文字):金融業界にオープンイノベーションの波が押し寄せています。この動きをどう見ますか。

金融サービスが好循環をもたらす<br />近未来社会
日立製作所
金融システム営業統括本部 事業企画本部
金融イノベーション推進センタ センタ長
長 稔也 
TOSHIYA CHO
1985年日立製作所入社、証券業界対応システムエンジニア、金融機関向けCRMソリューション開発、ビジネスコンサルティング活動などを経て、2016年より現職。The Linux Foundation Hyperledger Projectボード・メンバ、筑波大学非常勤講師も務める。

長(以下略):メガバンクを筆頭に、金融機関はオープンイノベーションへ舵を切っています。IT分野の技術革新が進展するとともに顧客ニーズが多様化、高度化する劇的な環境変化の中で、銀行をはじめとする金融機関のビジネスモデルは、従来の自前主義では成立しにくくなったということでしょう。有望な外部の力を取り入れ活用しようという機運が高まり、経営の発想転換が起きています。

 ベンチャー企業など外部プレーヤーとの接点を持ち、最適モデルに資金を投入してパートナーシップを結ぶオープンイノベーションの手法は欧米金融機関がいち早く取り組んできましたが、日本でもフィンテックが大きな話題となって、その動きが加速してきました。金融機関に限らず、単体の企業ですべてのニーズに対応できる環境ではなくなったのです。その意味で、オープンイノベーションは、現代を象徴するキーワードといえます。

 もっとも、フィンテックという概念はけっして新しいものではありません。当社が開発しているITシステムも「ファイナンスとテクノロジーの組み合わせ」の範疇にあります。ところが、いまは「フィンテック=ベンチャー企業」と思われがちです。その起点は、リーマンショック後の欧米金融事情にあります。金融業でリストラされた人材が、シリコンバレーやニューヨークで起業して新たなサービスを生み出し、破壊的攻撃者(ディスラプティブ・アタッカー)として金融機関のビジネスを侵食し始めたのです。

 しかし日本では、新規領域は外部の力を取り入れ、自社は本業に徹するという発想が強まり、金融機関とベンチャー企業との協業による「協調型フィンテック」が生まれました。金融機関にとって「誰と組んで、何を提供するのか」ということが重要になっています。

 御社もその潮流と無縁ではありませんね。

 その通りです。ここ数年、自己変革を遂げようとしてきました。当社は従来からシステムベンダーとして開発を担ってきましたが、顧客とともにビジネスモデルを創り出すという協創の発想を主軸に据え、昨年来、金融ビジネスユニットは多くのジョイントビジネスを実現しています。たとえば、三菱東京UFJ銀行とのシンガポールでの小切手電子化の実証実験や、第一生命保険との医療ビッグデータ分析などです。また、カブドットコム証券とのストックレンディングのレート算出では人工知能(AI)を提供しています。これらは、当社が金融機関の強力なパートナーとなり、顧客のビジネスモデルを協創するポジショニングを目指してきた結果です。

 これに大きく貢献したのが、フロントエンドに立った研究者たちです。新しいテクノロジーを熟知する研究者たちが顧客目線で着眼、発想することで、協創へ向かうモチベーションが生まれています。たとえば、AIの領域でお客様から適用パターンのヒントをいただくことなどです。研究室では知りえない生きた情報は、新しいものを生み出す原動力になっています。