ICT活用の手法に、これまでとどういった違いが出てきているのでしょうか。
これには2つの側面があると考えています。まず一つは、テクノロジー面。これには明らかにクラウドの浸透が大きく影響しています。最近ではPCだけでなく、IoT(Internet of Things)によって、ありとあらゆるデバイスがネットワークにつながっています。これには当然、通信コストの低価格化が影響しており、テック企業でなくてもIoTデバイスをうまく活用することによって、ビジネスをスケールさせることが可能となってきました。たとえば、サブスクリプション(定額制)動画配信サービスで世界的に成功しているネットフリックスは、もともとDVDレンタルサービスから事業を始め、クラウドを利用することによって拡大してきたわけです。ネットワークとしてはLPWA (Low Power Wide Area:消費電力を抑えて遠距離通信を実現する通信方式)や、IoT向けのLTEなど、IoTデバイスに適した無線技術が提供できるようになってきました。クラウドと低コストの通信基盤、IoTデバイスによるさまざまなソリューションが利用できるようになったことで、デジタル・トランスフォーメーションを進められる環境が整ってきたといえるでしょう。
そして、もう一つはビジネス面です。これからIT活用の目的が「新たなビジネスを興す」へシフトしていくと、不確定要素の多い時代背景の中で、そもそも新たなビジネスが成功するかどうか、どれだけスケールするのか、やってみなければわかりません。そうなると、まずは小さな規模でスタートしてみて、失敗の中から学びを得て、いかに早くPDCAサイクルを回していけるかが、ビジネスの成功にかかってくるわけです。ですが、これまでは新規事業を行うとなると、「メーカーに新規サーバーを発注してエンジニアを手配して、予算は今年度で○億円」……などと、莫大な設備投資が必要となっていました。それがいまでは、10人単位のプロジェクトチームからスタートして、プロトタイプをつくって、シェアオフィスを借りて、クラウドサーバーを契約して、可能性が見えたら資本を投入する。そういった「リーンスタートアップ」的なアプローチが可能になっています。これが、まさしくデジタル・トランスフォーメーションなのです。
スマートフォンに象徴されるように、ITの進化は私たちの暮らしをすっかり変えてしまいました。スマホには手帳もカレンダーもメモ帳も、辞書も百科事典も書籍も……あらゆるものが搭載されていて、デスクには何一つ置かなくても仕事ができるようになりました。ビジネスの世界も同様です。ラップトップを支給して、G Suite(グーグルのグループウェア)かOffice365(マイクロソフトのグループウェア)などを人数分だけ従量課金制で契約して、携帯電話さえ持たせればいい。固定電話はおろか、オフィスさえ持たなくても仕事ができるようになりました。これは、スタートアップ企業に限ったことではありません。大企業や中堅企業においても、デジタルを活用して、自分たちの本業たるビジネスをもう一ランク上のステージへ上げて、他社と差別化できるかどうかが、今後マーケットで生き残るためのカギとなるのです。