企業にとって重要な機能となっている「コミュニティ」。顧客や消費者がプロダクトの熱心なファンになれば、企業はぐんぐん成長できる。しかし、突然「コミュニティをつくる」と言われても、何から始めればいいのか分からず戸惑うビジネスパーソンは多い。本連載では、『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』の著者が、コミュニティづくりに成功している人々を訪れ、その秘訣を聞きます。今回インタビューをしたのは、総務省に在籍して現在は神奈川県庁に出向するかたわら、47都道府県の地方自治体職員と国家公務員をつなぐ大規模コミュニティ「よんなな会」を主催する脇雅昭さん。インタビュー前編では、イベントを盛り上げる方法について脇さんが教えてくれた(詳細は「スナックまで!参加者が勝手に盛り上げるイベントの作り方を伝授」)。後編は2018年からコミュニティを開放し、急激に規模を広げていった狙いについて聞いた(構成/蛯谷 敏、インタビューは2019年12月に実施)。

公務員338万人を覚醒させる! 大規模コミュニティが抱く壮大な野望左から河原あず氏、脇雅昭氏、藤田祐司氏(撮影:竹井俊晴、ほかも同じ)

河原あずさん(以下、河原):コミュニティ運営をする中で、知らない人同士の交流を深めるには、どうすればいいでしょうか。

脇雅昭さん(以下、脇):僕がよくやっているのは「他己紹介」です。僕自身、「自己紹介」は苦手です。自分のことを自分で話すのって何かイヤじゃないですか。それで20~30人の会合では、全部、僕が参加者の方々を他己紹介していくんです。

 この他己紹介がいいなと思ったのは、ある友達の自己紹介を聞いていた時のことでした。彼は、競泳の選手で、世界2位にもなったこともある人物です。残念ながらオリンピックには出場できなかったけれど、それでもすごい経歴ですよね。

 それで、彼が「僕は世界2位なんです」と言うと、みんなは「ほおーっ」となる。ところが「なぜ僕がそこまで行けたかというと……」と続けると、少し白けた雰囲気になるんです。自慢をしているようにも聞こえかねませんから、どうしても「すごいな」と思うと同時に、どこかで抵抗感や嫉妬のようなものがあるんだと思うんです。

藤田祐司さん(以下、藤田):分かります(笑)。

脇:ところが、同じ内容を、彼の横にいる人が、「こいつ、すごくって……」と紹介すると、途端にみんなが聞くようになるんです。「でね、練習の仕方がね……」と続けると、みんな、「どうやって世界2位になったの? すごいね」となるわけです。

 これが他己紹介の力だと思います。相手をほめることで、場の盛り上がりや、人のつながり方は大きく変わっていくわけです。僕が他己紹介する場合は、参加者の座っている順番に関わらず、簡単なストーリーをつくって人をつなげていっています。

河原:ただそのためには、脇さんが参加者全員を知っていないとダメですよね。

脇:そうなんです。だから僕は、事前に参加者を全員、チェックしてます。あるいは僕の連れてきた友達だったら、その人に紹介してもらったりもしています。それで続けていくうちに、面白いことを発見したんです。この他己紹介は、「なぜその人に来てもらいたいと思ったか」という僕からの「I love you」を伝えているんです。先程の競泳の選手であれば、世界2位になったことを心から尊敬していることを、僕は伝えているわけです。これを2人きりの個室で伝えると少し気持ち悪いですよね(笑)。

河原:フラットに「I love you」が伝えられる場として、コミュニティがあるわけですね。

脇:そうです。しかも本人に直接ではなく、ほかの参加者に彼の良さを伝えようとしている。結果として他己紹介の後は、全員の関係性がとても良くなるんです。紹介された側は「そんな風に思ってくれていたんだ」とうれしい気持ちになるはずですし、初めてその人のことを知った人にも魅力が伝わりますから。

河原:そんな集まりを実践するには、コミュニティの規模は大きくない方がいいですよね。

脇:20人くらいがちょうどいいですね。30人になると少しキツい。以前はもう少し時間があったので、1人ひとりの他己紹介を紙に書いていました。「この人をひと言で表現すると……」と。でもそうすると、大体「○○のエース」という表現になってしまうんです(笑)。いつも、「エース多くない?」「いや、エース級しか呼んでないから」といったやり取りが起きていました。こうやって仲良くなった人が、「よんなな会」の運営を一緒にやってくれています。