大恐慌襲来#14Photo:Maridav/gettyimages

新型コロナウイルスの第2波が押し寄せ、「需要は2~3年は戻ってこない」との諦念が漂いつつある外食業界。これから秋に向け、外食企業は金融機関に事業の継続性を本気で問われることになる。この状況下では、資金力があるものが勝つ。M&Aを含め、勝負を仕掛けるのはどこか――。特集『大恐慌襲来 「7割経済」の衝撃』(全22回)#14では、ビッグクライシスが起きるたびに、新しいトレンドをつくる「破壊者」が生まれてきた外食業界における次の覇者候補を探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

外食企業幹部を驚かせた
1年前のゼンショーの資金調達策

「ゼンショーはやっぱり聡いですよね。資本性ローンって今でこそ外食業界でも注目されるようになりましたけど、1年以上前からすでにこれを実行していたわけですから……」

 ある外食企業幹部は、外食大手であるゼンショーホールディングスの小川賢太郎会長兼社長が過去、投じていた一手に舌を巻く。

 外食業界は、新型コロナウイルスによる外出自粛により売り上げが激減している。もちろん、この局面における外食企業最大の注力事項は、減った実入りの“穴埋め”施策だろう。ただしコロナの第2波が押し寄せる今、「結局、需要は2~3年は戻ってこない」というのが外食業界の大方の見方となっている。外食企業の経営陣にとっては同時に、長期戦を覚悟の上での財務戦略が急務となっているということだ。

 当面の資金繰りについては借入金によって手当てできたところが多いにしても、問題は借入金の増加によって傷んだ財務の下、いかにして事業を維持・成長させる“原資”を手にするかだ。そこで最近、取り沙汰されているのが、資本と負債の間の性質を持つ資本性ローン=劣後ローンである。

「ローン」という名が示す通り、劣後ローンは負債に分類される借り入れだが、返済期限が超長期にわたったり、企業が破綻した際に金融機関が債権回収できる順番が通常融資より劣後したりするなど、資本に似た性質を持ち合わせる。それだけに、条件によって負債の一部が資本としてみなされるため、企業にとっては財務基盤を強化できるメリットがある融資だ。

 ゼンショーは2018年6月と19年3月に、返済期限が35年という「住宅ローンさながら」(銀行幹部)の「劣後特約付ローン」で300億円ずつ資金を調達。日本格付研究所から「調達額に対して50%」という資本性の“お墨付き“も得て、晴れて「事実上の財務改善」を果たした。

 劣後ローンの「資本性」を考慮した後のゼンショーの20年3月期の財務数値は、有利子負債で1507億円、ネットD/Eレシオ(負債資本倍率)で1.0倍、自己資本比率で31.9%だ。資本性の考慮前ではそれぞれ、1807億円、1.8倍、23.7%だから、劇的に健全性が増してみえる。

「ゼンショーは外食企業で数少ない『M&Aに乗り出せる企業』だ。有事の外食業界では、資金に余裕がある企業こそが勝つ」(前出とは別の銀行幹部)。だからこそ、外食関係者も、外食業界に金を貸す金融関係者もゼンショーの一挙手一投足を固唾をのんで見守っている。ゼンショーがコロナ禍で業界再編の主役に躍り出るのではないか、と考えているのだ。