松本人志と円周率

 円周率の値を、正多角形を使って計算する試みは東洋でも行われた。5世紀には中国(宋)の祖沖之(429~500)が正2万4576角形を使って小数第6位まで、17世紀には日本の関孝和(1642?~1708)が正13万1072角形を用いて小数第16位までの正しい値を求めることに成功している(ただし関が最終的に発表したのは小数第10位まで)。

 祖や関の執念もものすごいが、海の向こうの西洋では関より前にオランダのルドルフ・ファン・ケーレン(1540~1610)が、正2^62(2の62乗)角形(2^62=約461京1686兆)を考えることで、小数第35位までの値をはじき出している。

 「2^62」というのは、19桁にもおよぶ巨大な数であるから、計算機のない時代にいったいどれだけの心血を注いだのかと思うと、舌を巻くほかない。ドイツでは彼の功績を称えて、円周率のことをルドルフ数ということがある。

 話は飛ぶが、人気テレビ番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の中に、ダウンタウンの2人が視聴者からの質問に面白おかしく答えるという人気のコーナーがある。以前そのコーナーに「円周率の最後の数字はなんですか?」という質問が寄せられたことがあった。

 そのときの松本人志さんの答えが実に秀逸だったので、今もよく覚えている。数字なんて0から9までしかないのだから、どの数字を答えたとしても、予想の範囲内になってしまう。お笑いのお題としてはかなり難しい部類に入るのではないだろうか。

 しかし、松本さんは、相方の浜田雅功さんとのフリートークでさんざん盛り上げたあと、「じゃあ、言いましょう! 円周率の最後の数字は……『?』です!」と言ったのだ(文章で書いても本来の面白さは万分の一も伝わっていないと思う。松本さんの名誉のためにも、実際の放送では、会場は爆笑に包まれていたことを記しておく)。

 私はそれを観て大笑いしたあと、それにしても見事な答えだと思った。なぜなら、松本さんの答えは数学的にまったく正しいからだ。

 円周率の正確な値を分数で表すことはできない(このような数を無理数という)。これは、小数点以下に不規則な数の並びが永遠に続くことを意味する。円周率の数の並びには終わりがないのだ。「最後の数字」は存在しないのだから答えようがない。まさに「?」なのである。

(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)