壁を壊して、どんな人も活躍できる世の中に

 障がいのある方が企業の一員として働くことで、紺野さんは、今後どのような社会変化を期待していますか?

 「『障がい者雇用』という言葉や『法定雇用率』という概念が必要ない社会になっていってほしいと思っています。このような法律がなければ障がい者が雇用されないのは、『障がい者は仕事ができない』という考えが根底にあるからです。しかし、それは知らないだけです。障がい者雇用を積極的に行っている企業の特徴は、そもそも『障がい者を雇用している』という意識がありません。現在の障害者雇用納付金制度では、週20時間以上働いている方が対象で、週20時間未満では雇用したことにはなりません(令和3年度から申請受付の「特例給付金制度」では、週10~20時間未満の短時間で働く障がい者を雇用する企業にも給付金は支給されることになったが、「法定雇用率」の対象にはなっていない)。この時間数が企業の採用の足かせのひとつになっているのではないかと感じています。短時間で働きたい障がい者もいますし、健常者では20時間未満で働いている方もいます。最近では『ショートタイムワークアライアンス』という取り組みも出てきています。時間にとらわれない働き方が増えていってほしいですね」

 さまざまな課題を解決しながら、みんなで共生社会を実現していくのが理想だと…

  「介助者なしに生命維持ができない重度障がい者であっても、経済活動中は介助者派遣を自己負担しなければならず、働きたい障がい者の壁となっています。現在の社会の課題のひとつだと感じています。障がい者雇用の促進は、障がい者について知る人を増やす手段でもあります。知れば知るほど生かしあうことができ、障がいが『害』でなくなります。障がいをもった子供たちも、後天的に障がいを持った人たちも、働く障がい者の姿をあたり前のこととして受け止める世の中では、障がいを理由に絶望することなく、希望をもって生きていけるのではないかと思います。障がい者、健常者に限らず、高齢者、未成年者、従来の性別に捉われないジェンダーなど、さまざまな枠、壁を壊し、どんな人も活躍できる世の中に――私は、そのために、障がい者雇用の現場から、これからも書籍(執筆)や講演活動に取り組みます」

「障がいのある人事担当者」が求職側と求人側に伝えられること

紺野大輝(こんのたいき)
1976年、北海道生まれ。「脳性麻痺による脳原両上肢機能障害(2級)」者。2000年、法政大学卒業後、一般採用で都内老舗ホテルに入社し、購買部で5年間勤務。その後(2006年)、障害者採用で転職、従業員1800名の企業の人事部に勤務する。2015年、「全国・講師オーディション2015-100年後に残したい話-」にて、「奨励賞」を受賞する。2016年12月、『障がい者の就活ガイド』(左右社)、2020年4月、『会社を変える障害者雇用』(新泉社)を出版する。現在は現役の会社員として働く傍ら、障害者雇用をテーマとした講演を全国で行い、求職側と求人側の両方の視点からの話が独特でわかりやすいと好評を博している。
オフィシャルホームページ https://konnotaiki.net/

 

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。