可能性を最大限に発揮させる温室でありたかった
植物でいっぱいの温室があって、植物の一つずつが社員だと考えてみましょう。
典型的な会社は、CEOは最も大きくて、強く、カリスマ性のある植物と見なされ、すべての植物が、いつかそんなふうになりたいと努力するでしょう。ただし、私は自分自身や、自分のCEOとしての役割について、そんなふうに考えたことはありません。
あるいは、CEOは温室の主任庭師で、自ら土に手を突っ込み、水の酸性度を測って、すべての植物の健康状態を詳細に管理するという会社もあるでしょう(庭師がそこまでやるかどうかは、庭いじりをやったことがないからわからないのですが)。こちらもやはり、私は自分がそのようなCEOだと思ったことはありません。
ザッポスにおける私の役割は、たとえるなら、温室を設計した建築家です。適切な条件を維持すれば、植物は自力で成長して花を咲かせるでしょう。すべてのものが一定の基準に沿って作られ、適切にメンテナンスされて、温室のすべての植物が成長し、その可能性を最大限に発揮できるようにする。それが私の仕事です。
必要に応じて、私が温室の中に入って窓を交換したり、枠を調整したり、新しい温室に移動させることもありますが、基本的に邪魔にならないようにします。私が影になって、自然な成長を遅らせないようにします。
これは大人になってからほぼずっと、私の人生のテーマでもありました。
昔はしょっちゅうパーティーを開きましたが、私が主役ではありませんでした。それよりも、全体の流れを演出しながら、さまざまな人生を歩んできた人たちが衝突したらどんなことが起きるのかを、楽しみにしていました。音楽や照明、部屋の雰囲気、バーの場所などに影響を受けて、どんな衝突が生まれるのでしょうか。
私が現在暮らしているエアストリーム・パークでは、キャンプファイヤーを囲んで、日々おもしろい衝突が起きています。最近のある日曜日、シンガーソングライターのジュエルが、たまたま街に来ていました。私たちのパークで地元のビートボクサーとフリースタイルラッパーが演奏していて、ジュエルが合流することになり、トリオで2曲、即興の演奏をしました。今までに聞いたことのないパフォーマンスでした。もう二度と聞けないでしょう。
素晴らしい体験でした。私一人では絶対に実現できませんでした。私はビートボクサーやラッパーにはなれないし、もちろんジュエルにもなれません。彼らにできることは、私にはできないのです。私が彼らのマネジャーだったとしても、あの3人の組み合わせは思いつかなかったでしょう。完全に自然発生的で、セレンディピティ的な出来事であり、本当に感動しました。
そういうランダムな要素が、ビジネスでも結果を出すことがあります。だからこそ、ザッポスのみんなをもう一度、一つ屋根の下に集めたかったのです。そこから何が生まれるのか、見てみたかったのです。
ランダムな交流から生まれるものはランダムなものにすぎないことも、たしかにあります。それでも私の経験では、ランダムな衝突の100回のうち1回でも、何か創造的なものや、おもしろいもの、前向きなもの、収益性のあるもの、革新的なものが生まれれば、そこにビジネスの勝機があります。そして私の経験では、ランダムな衝突が前向きの結果をもたらす確率は、普通は百分の一よりはるかに高くなります。
この10年で私がいちばん変わったのは、温室の概念は小さすぎると思うようになったことです。規模の大きな企業は、あまり制約を受けるべきではありません。それに、温室は嵐で倒壊することもあります。