高円寺にある人気の銭湯「小杉湯」高円寺にある人気の銭湯「小杉湯」。右が3代目の平松佑介さん 写真提供:リクルート

東京・高円寺にある「小杉湯」は、緊急事態宣言下でも営業を続け、今も人々の生活を支えた上で、日常に癒やしや楽しみを与えている人気の銭湯だ。新型コロナウイルスの感染拡大以前の銭湯経営が厳しくなっていた時代からも客足が減ることなく、ずっと愛されてきた秘訣はどこにあるのか。(ダイヤモンド・セレクト編集部 林恭子)

3代目として「人気銭湯」経営へ
銭湯を人々の集まる場に

 最盛期には全国2万3000軒を数えた公衆浴場(銭湯)。自家風呂を保有する人の増加に伴って利用者は少なくなり、2018年には3535軒にまで減少した。東京都内だけを見ても直近で2006年(12月末、以下同じ)の963軒から19年には520軒へと、この十数年で半減している。

 こうした時代の変化にあっても、人気の銭湯として全国各地からファンを引きつけているのが、東京・高円寺にある昭和8年(1933年)創業の「小杉湯」だ。現在、跡を継ぐのは、3代目の平松佑介さん。住宅メーカーやベンチャー企業などで経験を積んだ後、先代の父から2016年に引き継いだ。

「『人気の銭湯』だとよく取り上げてもらうが、実は親の代から開店前や定休日にヨガや落語をするなどしていて、もともと人気があった。だから人気店にしたのは自分ではない。3代目として人気店を引き継いだ、という認識だった」(平松さん)

銭湯フェス、もったいない風呂…
新しい客層との出会い、つながりを生む

小杉湯,ファッションショーダンスも交えたファッションショー『踊る銭湯』も話題に
写真提供:リクルート

「家業は、たすきを受け継いでいく駅伝のようなもの」と語る平松さんは、時代の変化が激しい中でも家業を続けることの重要性を実感し、小杉湯へ来る人を増やそうと、浴槽が観客席になる「踊る銭湯」や「銭湯フェス」などのイベントを定期的に開催。入浴以外の目的でも楽しんでもらうことで、客層を広げた。

 さらに、全体として公衆浴場が減っている中、銭湯を「点」ではなく、そこからいろいろな人とのコラボレーションや地域とのつながりをつくって、「面」にしていくことが大切だと考えた。そこで始めたもののひとつが、「小杉湯となり」だ。

小杉湯となりもともと小杉湯の隣にあったアパートを取り壊した後に「小杉湯となり」は作られた 写真提供:リクルート

「小杉湯となり」とは、言葉通り小杉湯のとなりにある建物のことで、現在は食事をしたり、書斎としても使えたりする「銭湯つきセカンドハウス」として、約50人の会員が利用しているという。

「当初、会員の方は『小杉湯となり』で仕事をして、息抜きに銭湯に入るようなイメージを持って入会するケースが多かった。しかし実際は、会員さん同士で食事を作ったり、ワークショップを開いたり、イベントが行われたりと、多様な使い方と出会いが生まれている」(平松さん)