都道府県をまたいだ移動制限が解除され、コロナ禍で大打撃を受けた旅館・ホテル業界の回復に期待がかかるが、6月以降の稼働率はいまだに低く、危機的な状況が続いている。インバウンド需要が望めず、多くの日本人にも旅行への警戒感が残るなかで、旅館・ホテル業界が生き残るためにはどうすべきなのか。ホテル業界の内情に詳しいプリンシプル・ホテル コンサルティングの中山晴史所長が、リアルな旅館・ホテル業界の危機的な状況と決死の生き残り策を紹介する。
日本の観光業における
インバウンドの影響は大きくない!?
2019年は年間3188万人、1カ月平均でも約265万人の外国人が押し寄せた日本(日本政府観光局の年間推計値、以下同じ)。それが4月には2900人、そして5月には1700人という衝撃的な数字へと激減した。率にして99.9%減だ。
これらの数字から、訪日外国人観光客の激減が日本の観光業を壊滅的な状態に追いやったという論調をよく見かける。しかし、訪日外国人の数ではなく「消費額」で考えると、違う側面が見えてくる。
昨年の日本人と訪日外国人旅行者による日本国内における旅行消費額(「旅行・観光消費動向調査(2019年)」観光庁)は27兆円近くに上ったが、そのうちインバウンドビジネスが占める割合は17%ほどで、金額にして4.8兆円だった。日本人による宿泊消費約22兆円に比べれば、訪日外国人旅行者の激減が業界に与えるインパクトは報道されているほど大きくないことがわかる。
東京の浅草や渋谷、京都市内、大阪の中心部からは外国人が劇的に消えてしまったので、たしかに視覚的にもインパクトがあり、中でも今回取り上げる旅館・ホテル業界がこれにより壊滅的な被害を受けたようには見える。
しかし、実のところ旅館・ホテル業界にとっては、それよりも日本人ビジネスマンによる宿泊や宴会の利用客、あるいはレストラン利用客の消滅のほうが問題として大きいのだ。その影響は、国内におけるエリア特性による違いはなく、またホテルのグレード・業態・知名度などとも一切関係がない。つまり、北海道から沖縄までのあらゆるすべての旅館・ホテルが同様の苦境に置かれている。
これまで旅館・ホテル業界は、バブル崩壊やリーマン・ショックのような経済危機、あるいはSARSなどの感染病による危機、また神戸をはじめとした阪神地方や東北地方での震災などさまざまな苦難を経験してきた。ただ、これらのケースでは日本全国を見渡せば、人の動きのあるところには一定のマーケットが確実に存在していた。
それが今回は、まさに北から南まで同じ苦境にある。対応策を講じようにも、過去の事例や実例を参考にすることもできず、営業戦略上も苦しい時間が重ねられている。