もったいない風呂瓶に傷の入ったワインをワイン輸入会社に提供してもらい、実現したワインの「もったいない風呂」も。2日間で50本が浴槽に入れられた 写真提供:小杉湯

 実際に小杉湯を訪れる人だけでなく、日本全国の生産者らとのコラボレーションも行ってきた。その1つが2017年から始めた“もったいない風呂”だ。

 形が悪いなど品質としては問題がなくても廃棄せざるを得ない商品が日本各地に眠っている。そこで、全国の生産者や小売店とコラボレーションし、そうした商品を生かして、シークワーサー風呂や日本酒風呂、りんご湯、デコポン湯などを行ってきた。湯船に入れるだけでなく、実際に生産者らから仕入れたこれらの商品の販売も行っているという。

 このように、普通の銭湯にはない唯一無二の価値を生み出している小杉湯だが、銭湯経営は本来の仕事を回すだけでも重労働だ。一体、どのようにして新たな価値を生み出せる体制を整えていったのか。

本来の業務をデジタルで効率化
それでも「券売機」は使わないワケ

 平松さんが3代目として引き継いだ際にまず考えたのが「これから100年続く銭湯にしていくために、ビジネスとしてより強固に、家業から事業にしなければならない」ということだった。そこで小杉湯を株式会社化し、PRやイラストの制作を行ったり、事業として推進させるための社員を合計3人採用したりした。

菅原理之小杉湯CSO(チーフストーリーテラー)の菅原理之さん
写真提供:リクルート

 そのメンバーの1人が、2019年にCSO(チーフストーリーテラー)として、12年間勤めた外資系広告代理店を辞めて加わった菅原理之(すがはら・ただゆき)さんだ。

 まず菅原さんが行ったのは、労務管理などのバックオフィス業務を含む既存業務の効率化だった。中でも大きかったのが、売り上げの管理方法の変更だ。

 実のところ、小杉湯ではこれまで手計算で顧客と金銭のやり取りをし、番台の箱にお金を入れるという昔ながらの方法で売り上げを管理していたが、これを改善するために業務支援サービスを導入した。これによって、売り上げデータの可視化と客観的なデータ分析もできるようになったという。

airレジ手計算だった売り上げ管理は、今では業務支援サービス「Airレジ」で行い、そのデータを混雑状況の予測にも活用している 写真提供:リクルート
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「実はこれまではどんな時間帯にお客様がいるのか、石鹸や髭剃りなどのアメニティがいつどれくらい売れているのかは、番台に立つ従業員の肌感覚に頼るところも多かった。しかしデータ化されることによって、お客様の増減が予測できるためおつりの準備が前もってできたり、商品の発注なども感覚に頼らず行えるようになったりしている」(菅原さん)

 この売り上げの管理は、コロナ禍で気にする人が増えた「混雑状況の見える化」にも役立ったという。

「緊急事態宣言後は『今、混んでいますか?』というお電話での問い合わせも増えた。そこで混雑情報を伝えるにはどうすべきか考えていたところ、時間帯別で管理できる売り上げデータを見せることだけでも参考になると気づき、SNSで発信を始めた」(菅原さん)