手書きマニュアル,AirREGI菅原さんが作ったタブレットを使った番台業務の「手書きマニュアル」。キャッシュレス決済の方法をわかりやすく解説している
写真提供:リクルート
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 とはいえ、これまで長年、手計算で行ってきた高齢の従業員に、タブレットを使って番台の仕事をしてくれ、というのはなかなかハードルが高そうにも思える。そこで菅原さんは分かりやすい『手づくりのマニュアル』を作成し、70代の従業員でも問題なく使いこなせるように工夫した。

「70代が『できた』と言ったら、それよりも年下の従業員は『できない』と言いづらくなる。そこで、実際に70代の従業員からレクチャーを始めたところ、現在ではみんなが使える状態になっている」(菅原さん)

 売り上げ管理を徹底するなら、最近よく見かける券売機を使った方がいいのではないか、と思う人もいるかもしれない。しかし小杉湯では、あくまでも「番台でのお金のやりとり」を大事にしている。

「人と人との大事なつながりが生まれるオペレーションは、番台でのお金のやりとりだと思っている。コラボレーションなど新しい工夫をするために、まわさないといけない既存の業務をいくらデジタルで効率化しても、これだけはやめないと決めている」(菅原さん)

小杉湯は「ケの日のハレ」
日常の中に楽しみがある場所

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態下では、銭湯は休業要請の対象外だったこともあり、銭湯が生活の一部になっている人のため、小杉湯は時間も変えずに営業を続けた。

「家にお風呂がないなど、どうしても小杉湯が必要な人だけ来てください、と呼びかけたところ、緊急事態宣言下で客足は4割減った。しかし裏を返せば、6割の人にとっては生活の基盤だと分かった」と平松さんは振り返る。

 小杉湯が一番大事にしているのは、「ケの日のハレ」。つまり、日常の中の非日常だ。

もったいないみかん「もったいない風呂」にも使われたミカンの販売も行った
写真提供:小杉湯
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「全国各地の生産者や小売店とコラボレーションして、さまざまな物販も行っているが、人気があるのは、佐賀県の竹下製菓という企業がつくっている『ブラックモンブラン』や700円もするクラフトビール、静岡県のハル・インダストリが展開する100%植物由来の消臭剤など、小杉湯を訪れないとなかなか買えないものばかり」(菅原さん)

 全国各地の生産者や小売店の方たちとのコラボレーションを通じて、訪れる顧客には日常生活の中での幸せや楽しみを提供し、つながりを生んでいく。銭湯を単なる「点」にせず、顔の見えるコミュニケーションで日常の中に小さな幸せを生んで「面」として展開していくことが、小杉湯を愛される銭湯であり続けさせる秘訣のようだ。