肉と魚の経済学#5
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「格之進」ブランドで飲食・食肉事業を展開する門崎代表取締役の千葉祐士氏。消費者に肉の知識を伝える「肉学校」を運営する牛肉業界のご意見番でもある。特集『肉と魚の経済学』(全13回)の#5では、コロナ禍で大打撃を受けた牛肉産業が今後どう変わっていくのか、千葉氏に尋ねた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

コロナ後の牛肉産業のキーワードは
ダイバーシティー&インクルージョン

――コロナ後の牛肉産業はどうなるのでしょうか。

 レストランやホテルに牛肉を納めている生産者は、外食産業への需要がいまだに戻っておらず大変困っている状態だと聞いています。新しい生活様式の中で、これまで必要ではなかったけれど残っていたさまざまなものがふるいにかけられるでしょう。その一方で、いろいろなところでいわれている「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(受容性)」が、牛肉・畜産業にも広がっていくと思います。

 例えば、不特定多数に売るのではなく、自らのブランドのファンなど特定のコミュニティーに対して、自分しか生産できない特色ある肉を流通させる、という流れをつくり出している生産者がいます。

 兵庫県で但馬牛を育てている田中畜産がその一例です。子牛を育てて肥育農家(肉牛を育てる農家)に売る繁殖農家でもあるのですが、田中畜産は出産が終わった母牛を6カ月間放牧して自然の草を食べさせ、無理せずにゆったりと育て、大きく育ったら出荷する、ということを行っています。

 一般的に、出産したり放牧して育てたりした牛は、牛肉としての流通評価が低くなってしまいます。ただ、田中畜産の考え方に対するファンがたくさんいて、市場評価とは別の思いと価格で買われています。育てる牛にはみんな名前が付いていて、と畜した後は田中畜産社長の奥さんが自ら精肉作業を行って切り分け、消費者に直接販売しています。また、飼育の状況はブログやSNSでも頻繁に公開しているので、消費者は自分がいずれ口にする牛がどのような思いでどう育てられてきたかを、きちんと知ることができるというわけです。