政治に翻弄されつつも、2018年に、東京の築地から豊洲に移転した豊洲市場が開場して丸2年が経過。いまだ取引高の減少という問題に悩み、水産物物流チェーンの非効率性という課題も抱えている。特集『肉と魚の経済学』(全13回)の#12では形骸化が叫ばれる中央卸売市場の存在意義を改めて問い直す。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
ピカピカの施設に移っても取引高が
一向に回復しない豊洲市場のなぜ
「コロナで大変だとは思いますが、豊洲市場の皆さまも都民の皆さまの胃袋を担う責任とやる気で大変活発にまた活気を取り戻しておられるところでございます」――。
突然の移転延期表明、そして日本全体を巻き込むドタバタ劇を経ての豊洲市場開場から、2年が経過した今年6月。小池百合子・東京都知事はツイッターで募った豊洲市場についての質問に答えるYouTube番組でこう答えた。
豊洲は水産物の中央卸売市場としては世界最大規模の市場である。東京都が18年に出した取扱高の見込みでは、近代的で新しい設備となった豊洲では移転前の約40万トンから開場5年後で約62万トンに増えるとなっていた。開場2年たった時点でふたを開けてみると、どうだろうか。
取扱高・取扱額共に毎年減少傾向が止まらない。今年はまだ8月時点までの数値しかないものの、コロナ禍で物流が混乱した状況を考えれば、昨年の数字を上回ることはなかなか難しそうだ。仮に前年比増加の40万トンレベルになったとしても、目標値とは相当の乖離がある。そもそも、水産物卸売市場の通過率は16年には52%まで落ちていた。この傾向はピカピカで世界最大・最先端の設備を持つ豊洲市場に移っても変わっていないかむしろ加速している――。小池知事が強調する“大変活発”という表現とは裏腹に、数字はそれを示している。都民の胃袋も現実的にはだいたい半分くらいしか、豊洲市場は担っていないのが現実である。
なぜこんなことになっているのだろうか。それには、豊洲に移転しても変わらなかった「漁業者にとって市場を通過するメリットが非常に薄い体制」にある。そればかりか、今の豊洲のやり方は、実は漁業者、スーパー、消費者の三者にとって全くメリットのないものになっているのだ。