本特集#6『世界の漁獲量が過去最高を記録する一方、日本は20年で4割減の深刻理由』で見てきたように、漁獲量が減少し危機的状況にある日本の水産事情。今年12月に施行される数十年ぶりに改正された漁業法は、どの程度効果を発揮するのか。特集『肉と魚の経済学』(全13回)の#9では、水産庁の事務方トップである神谷崇次長に、日本の水産資源の減少とどう対峙し、回復させていくのかについて聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
データ収集、資源回復計画作り、そして実行
全てを並行して進めていく
――12月1日に改正漁業法が施行されます。具体的には何が変わるのでしょうか。
改正漁業法は「現在日本近海で激減している水産資源を、2030年までに10年当時の漁獲量と同等の444万トンにまで回復させる」ことが最大の狙いです。水産庁が期限を決めて資源回復をコミットするのは、おそらくこれが初めてです。
資源管理を行うにはデータが重要ですが、実はこの整備についても日本は遅れていました。そもそも日本が資源の状態――つまり海の中に現在どの程度魚がいるのかを把握できている魚種は、日本では350種類もの魚が水揚げされているといわれる中、これまでたった50種類しかありませんでした。これを23年度までに、資源量の把握と評価の対象を200種類に拡大します。
データの収集元である水産市場の数も、10から400に拡充します。魚をどのくらい取ったかについての基本資料である漁獲報告書についても、実は同様にこれまではあまり整備されていませんでした。提出義務があるのは大臣許可漁業(大規模な遠洋・近海漁業)だけだったのです。これを知事許可漁業(中小規模の沖合・沿岸漁業)についても義務化します。
さらに、データの収集方法も紙ベースではなく電子ベースに切り替えます。水揚げ地および魚を取った漁船から電子的に送れるようにする。これは現在の漁獲枠制度であるTAC(漁獲可能量)の数値を設定するときに、紙ベースであるため1年前に収集した古いデータを基にして作り、適用されるのはさらに1年後、と2年のギャップができてしまっていたからです。
また、TAC対象魚種も増やします。現在漁獲されてい漁獲量の8割をカバーする数にする。ということは、沿岸漁業者が漁獲している少量多品種の魚もカバーすることを意味します。現在の8魚種に10~20の魚種を加えて、全体で約20~30くらいになるでしょう。
――はっきり申し上げると、水産庁は歴史的に資源管理に関しては「野放し」の状態だったように感じます。そもそも長年「水産資源は減っていない」というのが公式見解だったように見えますが、今回、スタンスを百八十度転換したのはどうしてですか?