毎回、ゼロからの挑戦だった
川原:重い言葉ですよね。これほどホームランを打ちまくっている元気さんが言うんですから。元気さんこそ、フォームを自ら変える達人ですよね。
川村:空振りも多いですが……(苦笑)フォームはよく変えていると思います。僕はもともと実写映画をつくっていて、『告白』や『悪人』のあたりからは企画を通しやすくなっていった。これを続けていても自分がつまらなくなってしまうと感じて、小説を書いてみようと思ったんです。
川原:これも大ヒットした『世界から猫が消えたなら』ですね。
川村:でも結果が出るまでは、結構、冷ややかな見方をされました。先輩方からは「それ一番、失敗するパターンや」と言われたり。でも結果として、全世界で翻訳されていまは200万部を超えました。麻理恵さんに比べたら全然少ないですが……。
そして、次にチャレンジしたアニメーションで『おおかみこどもの雨と雪』や『君の名は。』『天気の子』につながっていきました。僕自身、いつも未知の世界にジャンプしてきた経験の連続だから、卓巳さんたちの覚悟に共感するんです。
思い返せば、毎回「ゼロからの挑戦」でした。
どうやって小説を書くんだっけ? アニメってどう作るんだろう? というところからの出発。だからこそ、二人が渡米してからの数年間にわたる不安な気持ちは、自分ごとのように想像できる。
川原:うれしいです。僕たちも、あれほどたくさんの人に見てもらえる作品になるとは夢にも思っていませんでした。ただ、Netflixの番組制作で一緒に組んだチームは、ハリウッドの素晴らしいキャリアのプロフェッショナルばかりで。僕たちはそこに突然放り込まれた小学生のような状態(笑)。英語力は小学生以下だし。当初は怖さしかありませんでした。
川村:できあがった番組も観ましたが、ひと言で言えば「異色」。僕も今、Netflixといくつかのプロジェクトを動かしているのでよく分かるんですが、まず全世界向けの作品で日本人がメインキャラクターとなっているコンテンツというのが異色です。
その上、小柄な妖精のような麻理恵さんが、画面の真ん中にいるという設定もレア。さらには、「ときめき」というシックスセンスを軸にした「片づけ」というのも新鮮だったんでしょうね。「モノと向き合う」感覚は、「八百万の神」のような精神文化のある日本人ならではと思っていたけど、欧米人にとってもエンターテインメントになり得るんだと初めて分かりました。(後編に続く)