「絶対に壊れないモノづくり」が
変化への対応を遅らせる

 年長の要職者のアドバイスや決裁が新規事業とうまくかみ合わない理由のひとつに、「サービスダウン」に対する考え方の違いが挙げられます。

 近年、大企業でも活用されるようになった「クラウド」や「クラウド関連サービス」は、サーバーやシステムを自社で丸抱えして運用するオンプレミス型のシステムと比較すると、自由度の高い仕組みです。このクラウドを活用した事業と従来型システムによる事業とでも、判断の仕方は異なってきます。

 クラウドは、簡単に利用を始めたり終わらせたり、構成を柔軟に変更したりできます。また構成の増減や突発的なイベントへの対処も自動的に行うことが可能。このため担当者は、システムのお守りに時間を費やすことなく、自分がやるべきことにフォーカスすることができるのが特徴です。

 クラウドを利用することで、企業にとっては「壊れることを前提にプロダクトをつくってもいい」という状況が生まれました。これは「実際にサービスが停止してしまってもいい」ということではありません。システムの冗長性がクラウド側に委ねられた結果、ユーザーから見れば「壊れていないように見える」ようにプロダクトをつくれるということを表しています。また「自分では全システムの稼働を担わなくてもよい」と割り切れる部分が増えたからでもあります。

 ところが、昔から日本の産業を支えてきたインフラ事業やハードウェアのメーカーなどでは、「物理的に、絶対にダウンさせてはいけない」「壊れるモノをつくってはいけない」という考え方を土台に、事業を成長させてきた面があります。これは、ユーザーが安全・安心に使える製品やサービスを提供するためには必要なことなのですが、基本的にクラウドとは相いれない考え方といえます。

 確かに電気や電話が突然止まれば困りますし、家電製品やクルマがいったん世の中に出てから不具合が見つかれば、リコールになり大変な騒ぎになるでしょう。したがって、こうしたサービスや製品は世に出るときの品質が初めから問われます。一方で、今リリースされるソフトウェアの多くは、ユーザーのニーズに合わせて、リリース後に素早く進化させていく方が望ましいとされています。

 もちろん、クラウドにも「絶対にダウンさせてはいけない」というレイヤーはあるのですが、物理的な部分やネットワークインフラに近い部分をダウンさせない仕組みについては、GoogleやAmazonといったクラウドサービスの提供者が担ってくれます。

「何もかもを全くダウンさせないサービスを考える」「初めから完璧なものを世に出す」のではなく、ユーザーへのサービス提供時点でダウンしていないように見せ、ある一定の品質を守りながら進化させるというのが、クラウドを使ったサービス提供の考え方といえるでしょう。