「真面目な人の善意あるアドバイス」が
新規事業をダメにする
クラウドと従来型の製品・サービスの考え方の違いと同様、対象となる事業が成長モデル、プロダクトライフサイクルのどの位置に今あるかによっても、考え方は異なります。
事業のライフサイクルには、「ゼロイチ」と言われる新規事業の立ち上げに当たる導入期と、1から10、10から100にする成長期、成長した事業を維持する成熟期から衰退期・延命期といった一連の流れがあります。
ここ20年ほど大企業に勤めている人の場合、1000億円の事業をプラスマイナス数%のところで10年守り続けることを仕事にしている方々も多いでしょう。これはこれで、とんでもなくすごいことだと思います。
ただ、1000億円の事業を維持し続ける仕事と、ゼロから始まって当初は赤字スタートかもしれないけれども、5年後に数十億円のビジネスに育てるという、ある種、当たるかもしれないし当たらないかもしれない「山師」的な要素があるような仕事とでは、必要となる能力や知識が全く違ってきます。1000億円のビジネスを守り切れる人だからといって、ゼロイチの立ち上げができるかと言えば、それは普通にはできないことなのです。
ところが今、大手企業が新規事業を立ち上げると、1000億円を守ってきた人がゼロイチ事業の決裁を担当する事態になりがちです。
いろいろな企業の方に話を聞くと、新規事業を立ち上げるように言われた若手・中堅の現場の担当者が事業計画を練り、いざ社内のさまざまな人に相談したり、決裁を依頼したりする段になると、事業フェーズに合わない決裁者がいることによる課題があらわになるといいます。
決裁チェーンの中で「○○も調べておいた方がいい」「○○さんにも相談したらどうか」「○○も考慮しておかないとダメだ」といったアドバイスを、新規事業の現場担当者が受けることはしばしばあります。しかし、そのアドバイスは本当に有用なものでしょうか。
実は、こうした決裁者からのアドバイスには「自分の若いときの経験に基づくもので、領域は違うが大事なことは同じはず」という思い込みから来るものも多くあります。ですが、ここまで読んでいただいた読者の方ならお分かりのように、「新しいサービスでは、従来のものとサービス設計の考え方が違う」「事業立ち上げ期には、成熟期とは事業の育て方が違う」ということが起こり得ます。
また「自分は新サービスの領域には詳しくないので、別の人にもアドバイスをもらうように言っておこう」「相談されたからには、一生懸命、ありそうなリスクをピックアップしてあげよう」ということから出たアドバイスもあるかもしれません。これらはいずれも「何か言わなくては」という思いから出た「真面目な人たちによる善意あるアドバイス」なのですが、一種の責任回避でもあります。
本来なら「私には分からないが、できる人、分かる人にこの仕事を任せよう」という判断をすることこそが、決裁者としての仕事なのではないでしょうか。