社員の自社株保有に反対する理由
(1)インサイダー取引の心配が嫌

 一つ目の理由は、社員のインサイダー取引の心配をすることが嫌だからだ。

 社員は、会社の中にいて働いているわけだから、株価に影響する重要情報を知る機会があり得る。

 企業買収のような、関係者が管理に気を使う情報の場合はまだいいかもしれない。ところが、例えば製品の深刻な不具合や、逆に有望な新ビジネス、未発表の決算の数字などを社員がたまたま知ってしまったケースを考えてみよう。自分で自社株を売買したり、あるいは家族や親戚、知人などに自社株の売買を推奨したりすることが起こると大変厄介だ。

「理由は今言えないのだけれども、ともかくうちの会社の株を買っておけ」といった情報提供でも問題になる場合があり得る。また、株式の売買は、誰が、いつ、いくらの株価で、何株売り買いしたかが全て記録に残るので、後から調べられた場合にごまかしが利かない。

 社員自身が、自分が勤める会社の将来について案外分からなかったり、自社の株価については予想ができなかったりする場合が少なくないのも一面の真理ではある。だが、自社の「重要情報」に触れるかもしれない人物を、積極的に自社株に関わらせるのは気の進まない話だ。

 かつて(1980年代、90年代の話だ)、日本の大手証券会社は、社員が自社の株式だけ自由に売買できることになっていたが、どういう理由でそうなっていたのか、筆者には想像が付かない。会社によっては、社員が自社株を買う場合に、会社が資金を融資してくれるような制度を持つ場合もあった。

社員の自社株保有に反対する理由
(2)資産運用でリスクが集中し過ぎる

 第2の理由は、勤務先の株式が社員の資産形成のための運用手段として不適切であるからだ。社長は、自分の都合ばかりでなく社員の長期的な資産形成の適切性にも気を配るべきだろう。社員の資産運用のことを考えてあげるくらいしか取り柄のない社長になりそうな筆者としては、この点を考えないわけにはいかない。

 勤務先の株式が運用資産の中で大きな割合を占めている状況は、リスクが集中し過ぎていていかにもまずい。