強い味方がいる、フィリピン人の技能実習生たち

 本国の送り出し機関と日本の監理団体のあしき関係性が技能実習生の労働を搾取しているというメディア報道、また、ベトナム人の技能実習生などが何らかの犯罪に関与したというニュースも目立っている。玉腰さんは監理団体に在籍する者として、そうした状況をどう見ているのか。技能実習生たちの母国それぞれの、制度への向き合い方の「違い」はあるのだろうか。

玉腰 技能実習生に関する新聞報道やルポルタージュを読んだり、NHKなどのドキュメンタリー番組などを見たりすると、本当に心が痛みます。

 2016年に外国人技能実習法*12 が制定され、外国人技能実習機構*13 が作られ、監理団体が認可制になり、いったんは技能実習制度の健全化が進むのではないかと思われました。

*12 「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の略称
*13 外国人技能実習機構(OTIT)は、「外国人の技能、技術又は知識の修得、習熟又は熟達に関し、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力を推進することを目的」としている。2017年(平成29年)設立。所在地は東京都港区。

 しかし、同じ頃、実習生としてベトナム人が急増しました。そして、毎年の失踪者数が5000人から7000人、9000人と急増していき、状況は悪化したのです。報道で取り上げられる技能実習生にまつわる事件もほとんどがベトナム人に集中するようになりました。

 フィリピンは、以前から「出稼ぎ立国」などと呼ばれているように、自国の労働者を海外に送り出して、その送金で経済を潤してきた国です。それを追随しているのが中国であり、最近のベトナムだと、わたしは思います。

「先輩格」のフィリピンには、国が出稼ぎ労働者を保護しようとする場面がよくあります。たとえば、実習生を日本に呼び寄せる際、駐日フィリピン大使館が申請書類を細かくチェックし、ときには賃金をもっと高く設定するよう要求してくることもあります。日本にいる実習生から何か問題が通報された場合には迅速に乗り出してきます。

 わたしたちが関係しているフィリピン人実習生たちは、日本で何か不満があったとき、監理団体ではなく、母国の送り出し機関や日本語教育機関に連絡を取って窮状を訴えることがあります。そのほうが実習生たちにとって慣れない日本語ではなく、母国語で相談できて気持ちが伝わりやすいからでしょう。それに、スタッフや先生と親しい関係ができていて味方になってくれるので安心して話せるのでしょう。

 このルートでクレームを受けると、監理団体は寝耳に水で問題を知ることになり、フィリピン側に不信感を持たれてしまいます。だから、そういうことがないように、わたしたちは日頃から実習生たちとよく会い、仕事や生活の様子を聞き、業務や人間関係に不満を言っていないかを聞き出すようにしています。フィリピンは、国も送り出し機関も、実習生の「強い味方」になっているようです。

 ベトナムの場合はどうでしょう。丹念に取材されたルポによれば、ベトナム人の技能実習生の場合、日本に来る前に多額の借金を作ることが多い事実が明らかにされています。ベトナムの送り出し機関が実習生から大金を得て、実習生たちは日本に来てからその借金を返しているというのです。しかも、送り出し機関から日本の監理団体へのバックマージンがあったり、過剰な接待が行われたりと、ベトナム人の実習生たちは「悪徳業者」に食い物にされている側面もあるようです。