「厳正な対処の姿勢」が監理団体の脅威になり得る

 送り出し機関は、「技能実習生になろうとする者からの技能実習に係る求職の申込みを適切に本邦(日本国内)の監理団体に取り次ぐことができる者」と定義され*14 、日本国内の監理団体が、監理費に該当しない金銭を送り出し機関などの関係者から受け取ることは禁じられている。また、公的な調査によれば、ベトナムの送り出し機関は500弱あり、その数はフィリピンの1.5倍となっている*15 。同じ国の送り出し機関でも技能実習生になろうとする者への対応は異なるだろうが、数が多いだけに「右へ倣え」的な姿勢もあるのかもしれない。

*14 外国人技能実習機構(OTIT)[技能実習制度における送出機関]より
*15 外国人技能実習機構(OTIT)[送出し国・送出機関情報]より(2021年1月15日現在)

玉腰 フィリピン人の実習生は、借金をしてくる人もなかにはいるようですが、それは日本語の勉強をしている数カ月間の生活費や多少の渡航準備のためらしく、せいぜい10万円から30万円程度で、数カ月から1年以内で返せるものです。

 母国での借金がないので、フィリピン人なら、日本で職場が合わないとか、何か不満があってどうしても解決がつかないときには、最悪の場合には帰国してしまえばよいのです。実際、ミスマッチが埋まらないときには本人の希望で帰国しています。そのときの帰国費用も通常は日本側の会社負担です。

 会社側にしてみれば、高い費用をかけてフィリピンまで採用面接に行き、日本語学習の費用も負担し、寝起きする部屋や生活道具一切まで用意したりと、手間ひまをかけたあげく、帰国費用まで負担するのですから、丸損です。(実習の途中で)帰られては困る。その点でみれば、実習生と会社の労使関係が対等に近く、緊張感を持っているともいえます。

 ベトナム人の実習生のなかには多額の借金を抱え、途中帰国になったら返しきれない膨大な借金が残るケースもあって、帰国できない人もいるのでしょう。そのため、会社がブラックでも実習生たちは我慢するしかない。どうしても我慢できなくなったり、試験に落ちたりして帰国しなければならなくなったときには、逃げて、違法状態で稼ぐしかない。失踪者が集まれば、犯罪につながる可能性も高まっていきます。

 世界各国どこでもそうですが、外国人や移民に対して受け入れ側となる社会が直感的にネガティブな感情を持つのは、「治安秩序が損なわれる」「犯罪発生率が高くなる」という心配があるからでしょう。人口減少と高齢化で、社会を維持するのに若い労働力を外国人で補っている日本の現状で、不要に外国人排斥感情に直結する事例が頻発しているのは困った事態です。このまま続けば、偏見を助長し、まじめな外国人まで疑いの目で見られかねません。

 それなら、国の機関(外国人技能実習機構など)が悪質な事例に厳正に対処すればいいではないか、という話になるでしょう。特にブラック企業に加担する監理団体の認可を取り消せばいい。実際、わたしたち監理団体の職員は認可を取り消されれば全員が失職するので、「取り消し」を相当な脅威に感じていて、コンプライアンスの徹底を心がけています。その意味では、2016年の外国人技能実習法の効果は相当にあると思っています。

 ベトナム人の実習生が来日前に借金を背負う問題は、「厳正な対処の姿勢」が抑止効果をまだ持っていないと考えられます。外国人技能実習機構は日本の公的機関であって、国外にある送り出し機関までは是正の矛先が届きにくいのかもしれません。

 わたしから見れば、つくづく、ベトナム人の技能実習生の問題は歯がゆく、残念です。

次稿(2月16日配信予定)に続く

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。