厚生労働省の最新調査(令和2年 障害者雇用状況の集計結果)によれば、民間企業が雇用する障がい者の数は過去最高を更新。また、2020(令和2)年6月1日現在での特例子会社の数は542社で、前年より25社増えている。法定雇用率も来月(2021年3月)にアップし、特例子会社の存在がいっそう注目される中、“特例子会社経営”のノウハウを論じた書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』が昨年11月に刊行された。今回は、その編著者である、パーソルチャレンジ株式会社 シニア・コンサルタント 洪信男氏に、特例子会社における障がい者雇用の現状を語ってもらう。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

増加する特例子会社の傾向は二極化が進んでいく

 特例子会社*1 は、2020(令和2)年6月1日現在で542社(前年より25社増)、雇用されている障がい者は、3万8918.5人(前年は3万6774.5人)となっている。

 厚生労働省は、特例子会社における事業主側のメリットとして

○ 障害の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害者の能力を十分に引き出すことができる
○ 職場定着率が高まり、生産性の向上が期待できる
○ 障害者の受け入れに当たっての設備投資を集中化できる
○ 親会社と異なる労働条件の設定が可能となり、弾力的な雇用管理が可能となる

 

 といったことを挙げ(「障害」表記は原文ママ)、障がい者雇用全体の拡大に合わせて、特例子会社の数も今後いっそう増えていくだろう。

 まず、パーソルチャレンジ株式会社*2 シニア・コンサルタント 洪信男氏に、増えつつある特例子会社の現在の動向を聞いた。

*1 障害者雇用率制度においては、障がい者の雇用機会の確保は個々の事業主(企業)ごとに義務づけられている。その特例である「特例子会社」制度は、障がい者の雇用の促進および安定を図るため、事業主が障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できることとしている。(厚生労働省「「特例子会社」制度の概要」より)
*2 パーソルグループの特例子会社として、グループの事務業務や広告制作等を担うBPO事業、官公庁受託事業、就労移行支援事業、日本最大級の決定実績を持つ障害者専門の人材紹介事業(dodaチャレンジ)など、障害者雇用にかかわる事業を総合的に展開し、「障害者雇用の成功」を目指す企業。本社・東京都港区。従業員数841人。(同社ホームページより  *「障害」表記は原文ママ)

 障がい者雇用のトレンドとして、特例子会社は増えてきてはいますが、現状ではまだ障がい者雇用の主流とはいえません。

 弊社刊行の書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』に記したとおり、全体の障がい者就労者の10%未満にすぎません。

 しかし、(1)法定雇用率は今後も上昇し続けること 、(2)雇用率上昇によって採用拡大が必要である一方、企業の採用基準が緩和されていないこと(身体障がい者など特定の層の障がい者に採用ニーズが集中し、採用競争激化・採用難が続いている)、(3)障がい者労働市場の質的拡大が大きく進んでいないことの3点から考えると、特例子会社制度を活用した雇用拡大はこれまでのスピードを超える勢いで増加すると考えられます。企業本体では現行の採用基準を維持しつつ、特例子会社を活用して採用基準を緩和し、新たな職域を創出していく選択肢がこれまで以上にクローズアップされると考えられます。

 親会社などグループ適用の対象となる従業員数「1万人以上」が特例子会社の3割以上を占めるという民間調査*3 のデータもあり、大企業は特例子会社を創立しやすいイメージがある。事業規模や業種など、特例子会社には何らかの「傾向」があるのだろうか。また、その事業方針に共通の特徴はあるのだろうか。

▲特例子会社の障がい者雇用を経営視点から捉え、雇用改善と成功のポイントを解説した書籍「障害者雇用は経営課題だった! 特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大」(編著:パーソルチャレンジ 発行:株式会社masterpeace  2020年11月発刊 モノクロ180ページ)

 特例子会社の拡大に業種の偏重はないように見受けますが、規模の大きな企業、専門性の高い職域の企業が(特例子会社制度を)取り入れる傾向が見られます。

 特例子会社の増加トレンドの中で、障がい者雇用においての二極化が顕著になると予測しています。

 まず、自社(グループ)の本業に資する職域で特例子会社を活用しようという傾向です。もともと、多くの特例子会社は自社(グループ)のユーティリティ業務*4 を担っていますが、それがより高度化していく方向性です。

 もうひとつは、障がい者雇用を本業に資する職域ではなく、「企業の社会性」訴求に活用しようとする傾向です。こちらは「企業の社会性」として真摯(しんし)に取り組んでいる企業――言い換えれば、一般雇用の難しい障がい者に雇用の機会を与え、社会参加と自立を促したり、地域の課題と障がい者雇用を結び付けたCSV(Creating Shared Value)的な活動としての取り組みです。ただし、実体の伴わない「お題目」だけの雇用も引き続き見られること(雇用して給与は支払っているが、有意な職務をアサインしていない例など)にも留意が必要です。

*3 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査 調査結果」(2018年12月)より 
*4 ユーティリティ業務…シェアードサービス、グループ内BPO、外注業務の内製化など(書籍『障害者雇用は経営課題だった!特例子会社の戦略的活用による雇用・事業拡大』より)