もっと日常の食卓で気軽に使える“ジーンズのような漆器”を作れないか――。そう考え、3年ほど試行錯誤を繰り返し、生み出したのがオリジナル技法「砂紋塗(さもんぬり)」だ。その手法は漆と砥の粉を混ぜた下地に指で文様を描き、手塗りで漆をかけて仕上げるというもの。枯山水の白砂に描かれたような凹凸の文様が、素朴ながら独特の世界観を生み出している。

「長男や他の方からも『こういう漆器が欲しかった』という声を頂き、広く若い人にも漆器に親しんでいただきたいと考え、『浜椀』と名付けて販売をスタートすることにしました」(杉中氏)

“お食い初めセット”などで
子育て世代にもアピール

 斬新な風合いに加え、その特徴は大きく三つある。一つは何といっても傷が目立ちにくいこと。

「欠けたり、ひび割れたりした場合も補修が可能ですので、一生ものの食器として使えます」(杉中氏)

仏壇の漆塗りの技術を生かした独自デザインの漆器が話題を呼ぶ(上)今春より日本の伝統文化に興味を持つ外国人向けに、専用Webサイトでオリジナル金継ぎ製品の海外販売をスタート。(下)現代の住宅事情に合わせたオーダーメードのコンパクトな仏壇「小菊壇」も展開
宗永堂 事業内容/漆塗り仏壇仏具・漆器製造販売、従業員数/3人、売上高/2000万円(2020年度)、所在地/滋賀県長浜市国友町789、電話/0749-63-7769、URL/soweido.com

 二つ目は独特の色彩だ。漆器というと黒と朱が一般的だが、「黒漆」の他、下地に朱色の漆を塗り、半透明の漆を重ねることで下の朱が透けて見える「朱溜め」と呼ばれる遊び心ある色展開も。「使ううちに朱色がさらに明るく浮き出てくる変化も楽しめます」と杉中氏。緑や黄色などさまざまなカラーリングにも挑戦している。

 三つ目が種類の豊富さだ。浜椀に加え、酒器や皿、サラダボウルやお食い初めセットなど、精力的にラインナップを増やしている。

 また、漆については大学や各地の工業技術センターなどの研究により抗菌作用があることも明らかにされており、“近江塗”というブランド名で滋賀県(近江)の漆芸を全国発信する動きも出てきているという。

 若い世代の “仏壇離れ”を食い止めるべく、漆器を起点にいかに本漆塗りの仏壇への興味喚起につなげていくか。同店の“古くて新しい”チャレンジは続く。

(「しんきん経営情報」2021年4月号掲載、協力/長浜信用金庫