――日本で初めてスッポンの養殖を始めた会社だそうですね。
服部 明治初期の1879年に、創始者の服部倉治郎が静岡の浜名湖で始めました。それまでは東京で川魚商をしながら、スッポンの飼育研究をしていたのですが、関西出張の途中で通った浜名湖に可能性を見出したそうです。愛知県立水産試験場の中村正輔と共に養殖に挑んだことから、「服部中村養鼈(ようべつ)場」という社名が付きました。
ただ、スッポンは育てるのに数年かかるので、なかなか商売になりません。そこで同じ池でウナギの養殖も始めたところ、売り上げが安定し、スッポン事業も軌道に乗りました。実はウナギの養殖も、弊社が日本で最初に始めたといわれています。
しばらくはスッポンとウナギ、両方を育てていましたが、1968年からはスッポン専業になりました。現在は、年間数万匹を出荷しています。
――御社で養殖しているスッポンの特徴を教えてください。
服部 自然に近い環境で、3~4年かけてじっくり育てていることです。
通常スッポンは、11~3月まで冬眠をしているのですが、その期間は餌を食べないので、なかなか大きくなりません。そのため多くの養鼈場は、温かいハウス内や温泉などでスッポンを育て、冬眠をさせずに餌を食べさせ続け、生後1~2年で出荷しています。
しかし、冬眠をさせないとスッポンにストレスがかかり、おいしさにも影響が出てくると私たちは考えています。それで弊社ではしっかり冬眠させるため、大きく育つまでに3~4年かかるのです。
――他社よりも倍の時間をかけて育てているのですね。
服部 餌も人工的な薬剤を使わずに、魚を中心にした独自配合の有機飼料を使ったり、直射日光の下で甲羅干しをさせたりしています。完全に屋外で育てているので、タヌキやサギなどに襲われるリスクもあるのですが、防護策を講じることで、自然に近い環境を保っています。