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全国から選抜された熟練技能者が「技」の日本一を競う「技能グランプリ」。繊維、建設、一般製造などの分野、職種ごとに競技が行われる同グランプリにおいて、2015年、紳士服製作部門で1位、その中でも最も優秀な成績を収めた人に贈られる内閣総理大臣賞をダブルで受賞。さらに17年、各産業分野における卓越技能者を厚生労働大臣が表彰する「現代の名工」に選ばれ、18年には農業、商業、工業などの業務に長年従事し模範となるような技術を擁する人に贈られる「黄綬褒章」を受章。まさに、日本を代表するスゴ腕のオーダースーツのプロが、静岡市にあるテーラーKOTOBUKIの店主・鈴木孝紀氏だ。(取材・文/大沢玲子)
見た人を「ハッ」とさせる
「スキ」のない服作りに注力
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同店は、鈴木氏の父が1958年に創業。鈴木氏は、東京・日本橋の老舗テーラーで修業後、25歳で実家に戻り、83年より店主に。87年、県内の技能競技大会で優勝し、周囲のすすめに従って88年、東京で開かれた技能グランプリの全国大会に参加するが、「他の参加者が芸術品のような迫力ある服を仕立てているのに対し、私の作品は洋服の形はしていても、明らかに見劣りする仕上がりで“井の中の蛙大海を知らず”を痛感した悔しい出来事でした」。鈴木氏はそう振り返る。
その思いをばねに同グランプリに挑戦し続け、2009年には3位、13年には2位になるが1位がなかなか取れない。「15年にはグランプリ前の2カ月間、一切、お客さまの注文を取らず、練習に没頭しました」と鈴木氏。
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その苦労が実り念願の1位に。「この経験がなければ今のテーラーKOTOBUKIはなかったでしょう」と語る。“最高の一着”を作るべく、一人一人の顧客、服作りに向き合う鈴木氏。モットーは「スキ」のない洋服を縫うこと。服のライン、シルエットを大事に、初めて出会った人を「ハッ」とさせる、迫力のある服を仕立てることを心掛けている。