町工場の技術力と食のプロのコラボが生んだ「わさび専用おろし板」がヒット

表面に刻印されているのは、無数の「わさび」の小さな文字。そんな見た目もユニークなわさび専用おろし金が、話題を呼んでいる。金属加工を手がける静岡県沼津市の小林金属製版所が、地元のわさび製品製造販売会社との共同開発で生み出した「本わさび専用おろし板 鋼鮫(はがねざめ)」だ。(取材・文/大沢玲子)

 インパクト大のデザインだが、決して受け狙いではない。その証拠に2017年の発売後、SNSやメディアなどで話題となり、「わさび本来の味を引き出し、手入れも簡単」と寿司店の職人などプロからの引き合いが殺到。一時期は製造が追い付かず、3カ月待ちの状態となった。

工作機械市場の縮小を受け
新たな事業創出が課題に

町工場の技術力と食のプロのコラボが生んだ「わさび専用おろし板」がヒット代表取締役・稲村大樹氏

 なぜ金属加工の会社が鋼鮫を手がけたのか。小林金属製版所では1960年の創業後、一貫して工作機械の仕様などを表示する金属銘板の製造を手がけてきた。しかし、工作機械の製造拠点の国外移転および市場自体の縮小を受け、「新たな事業創出が課題となっていました」と同社代表取締役の稲村大樹氏は語る。

 銘板は、それ自体は注目を集めることが少ないながら、長期間稼働する機械に応じた高い耐久性が求められ、環境に合わせた最適な素材の選択や特殊加工を施す高い技術力が求められる。

「銘板製造で培ってきた技術力を生かし、広く世に認知されるようなBtoC製品を作れないか」。模索を続ける稲村氏に、「エッチングで彫った金属表面で、わさびをすりおろせないか」と提案してきたのが、今回タッグを組んだ、山本食品社長・山本豊氏だ。エッチングとは、化学薬品などの腐食剤によって不要部分を溶解浸食・食刻することで金属の表面に凹凸を付ける銘板技術の一つ。“銘板のプロ”にとってはお手のものだ。しかし、“わさびのプロ”である山本氏が求めるのは「職人が愛用する鮫皮を使ったおろし板を超えるもの」。「そのリクエストに応えるべく、エッチングの柄や深さに関して試行錯誤を繰り返しました」(稲村氏)。

 こうして1年近く、約300個の試作を経て誕生したのが小さな「わさび」の文字が細かくエッチングされた鋼鮫だ。