自分の中の多層性を見せ、相手の複雑性を知っていく
コピーライターとしての仕事をはじめ、多方面で活躍している澤田さんは、これまでにさまざまな人たちと接し、これからもあらゆる人たちとのコラボレーションを続けていくだろう。対人コミュニケーションにおいて、心がけていることは何だろうか。
澤田 自分自身の中の「多層性」を見せるようにしています。アイデア出しや企画作りといった、僕が得意なことを伝えるだけではなくて、僕の弱さである「運動ができません」「立食パーティーが苦手です」みたいなことをしっかり伝えます。僕は今年40歳になるのですが、「リーダー」「年長者」としての立場が増えています。そんな僕が「強さ自慢」しかしなかったら、その場はチームにとってはアウェーになってしまう。でも、逆に、僕が「弱さ自慢」をするとみんなにとって居心地がいいホームになる。
同時に、相手の方の「複雑性」もたくさん知りたいなと思っています。たとえば、パラリンピアンにお会いしたときは、「#パラリンピック選手」としての栄光の話だけではなく、「#アニメ好き」のように何か別のタグの内容を知りたいし、知るようにしています。パラリンピアンの栄光の話は、その方のいちばん目立つ枝ですが、「他にはどんな枝や葉があるのだろう?」と。複雑性を探ることで見えてくる幹があるし、「あ、こういう芯が通っている人なんだ」と知れます。「イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人内多様性)」をお互いに見せ合い、知ることで、真の多様性社会に近づくと思うのです。
書籍「マイノリティデザイン」では、ページをめくる人が、社会と自分自身の中にある「マイノリティ」の価値に気づくことができる。著者である澤田さん自身が、特に読んでほしいと思う人は?
澤田 僕らは、仕事において一直線に目の前の利益獲得に走ることがあります。あらゆるものをカットして、最速でゴールにたどり着こうとする――それを、僕は「ショートカット思考」と呼んでいますが、いま、社会そのものが「ショートカット社会」になっていると思います。戦後の日本は欧米に追い付け追い越せで「ショートカット思考」を続けました。その結果、形からはみ出た“規格外”の野菜や果物が生産ラインから弾かれていったように、「マイノリティ」とくくられる人たちも社会から弾かれていった感があります。ショートカットとともに日本の経済成長があり、スピード重視も必然ですが、そこからこぼれ落ちているものもたくさんあるのです。
でも、メジャーリーガーが日本の野球界に来るときに“規格外の選手”と言われることがあります。スタンダードに収まっていない状態が称賛され、標準から逸れていることに価値が見出されているのです。これからの時代は、ますます規格外という名のマイノリティ性に注目が集まると思います。
ふと、「マイノリティ」に目を向けると、僕の場合はたくさんの発見がありました。発想や発明のヒントを見つけました。だから、まず、「ショートカットが行き過ぎているなぁ」と自分自身で思う方に、この「マイノリティデザイン」を読んでいただきたいです。いま歩んでいる道にちょっとした違和感があるなら、長い人生の中で少しだけ迷子になってみませんか?と。
※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティ」が導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。