東芝Photo:AFP/AFLO

創業145年、日本の製造業を代表する東芝が揺れに揺れている。金融界から経営立て直しにやって来た経営トップが電撃辞任。“最後っ屁”のように残された買収問題も混乱必至だ。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ、千本木啓文)

買収の機関車は走り始めている
車谷氏が残した“最後っ屁”

物言う株主と対話し、経営を立て直す手腕が期待されていた東芝トップが、「保身の末」に経営を投げ出した。しかも、会社丸ごとの身売り案件を残したままにして。

 実にあっけない退任劇である。東芝は4月14日午前、臨時取締役会を開催。そこで車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が辞任を表明し、受理された。「東芝再生のミッションを成し遂げ、天命は果たせた。まさに男子の本懐。3年の激務から離れて、心身共に充電したい」。車谷氏は同日の社長交代会見に欠席し、代読されたコメントで辞任の理由を世に伝えた。だがこの理由が偽りないものだと受け止める人は、東芝関係者には皆無だ。解任ではないとしても、車谷氏は直前まで進退を決められなかったはずだ。

 何しろ車谷氏は退任の間際まで、保身目的とのそしりを受けかねない事態に進んで身を置いていた人物なのだから。

車谷暢昭前社長、永山治取締役会議長、藤森義明氏電撃辞任した東芝の車谷暢昭前社長(左)は、永山治取締役会議長(中)から進退を問 われていた。藤森義明氏(右)は利益相反をどう考えるのか 写真:東芝ホームページより

 辞任のちょうど1週間前、東芝に対してプライベートエクイティ(PE)ファンドの英CVCキャピタル・パートナーズが買収提案をしていると明らかになった。そこにはこんな経緯がある。

 4月に入って間もない頃、東芝取締役会議長の永山治氏は、進退問題を念頭に置いて車谷氏と対峙していた。昨夏の定時株主総会で、車谷氏の取締役選任案への賛成比率は約58%。過半数を獲得し続投はなったものの、首の皮一枚で辛うじて留任したありさまだ。

 さらに一部株主の議決権が無効だったと後で判明。この総会の公正さを調査する議案が、今年3月の臨時株主総会で、筆頭株主であるシンガポールのファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントの提案で可決された。企業統治への不信が噴出した事態を受け、永山議長は車谷氏に進退を熟考するよう促していたのだ。

 それを車谷氏は、こう言って押しとどめたという。「ちょっと待っていただきたい。CVCから買収提案が持ち込まれている」。CVCの日本法人は車谷氏にとって、三井住友銀行副頭取の後に代表を務めた古巣である。そこからの提案を、自身の進退が問われる局面で切り札のように持ち出すことに、永山議長ら社外取締役は強い不快感を覚えたという。