どんな種類のスキルの習得にも使える「ウルトラ・ラーニング」という勉強法がある。このメソッドを体系化したスコット・H・ヤングは、「入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスター」「3ヵ月ごとに外国語を習得」「写実的なデッサンが30日で描けるようになる」などのプロジェクトで知られ、TEDにも複数回登場し、世界の勉強法マニアたちを騒然とさせた。本連載では、この手法を初めて書籍化し、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった話題の新刊『ULTRA LEARNING 超・自習法』の内容から、あらゆるスキルに通用する「究極の学習メソッド」を紹介していく。(本記事は2020年3月5日に公開された記事を再構成したものです)
私の最初の挑戦「MITチャレンジ」
私はMIT(マサチューセッツ工科大学)に通ったことはない。私が学生の頃通ったのは、カナダのマニトバ大学で、そこで学んだのはビジネスだった。
しかし、商学部を卒業した後、私は専攻を間違えたのではないかという気になっていた。私がビジネスの勉強をしたのは、起業家になりたかったからである。そうすることが、自分を自分の上司にするベストな道だと考えていたのだ。
そして4年後、私は経営学専攻が大企業やスーツを着たビジネスマン、そして「標準作業手順書」の世界に進む人々のためのものだということに気づいた。
それとは対照的に、コンピューター科学は実際に何かをつくることを学ぶための専攻だった。
そもそも私に起業の夢を抱かせたのは、プログラムやウェブサイト、アルゴリズム、そして人工知能であった。そのため私は、これからどうしたら良いのだろうと途方に暮れてしまったのである。
学校に戻るのはどうだろう、と私は考えた。改めてどこかの大学に入学するのだ。もう4年間かけて、別の学位を取るのである。
しかし、学生ローンを使ってまた4年も大学に通うというのは、あまり魅力的な話ではなかった。必要な知識を得るための、もっと良い方法があるはずだ。
そのとき偶然に、私はMITで教えられている授業がオンラインで公開されているのを発見した。
それは講義、課題、小テストを完全に網羅していた。実際の授業で使われた試験問題と、そのヒントまで用意されていたのである。
私は、この授業を受けてみることにした。
すると驚いたことに、私が以前大学に何千ドルも払って受講した授業のほとんどよりも、この授業の方がずっと優れていることがわかった。
授業は洗練され、教授の話は面白く、教材も魅力的だった。さらに調べてみると、MITが無料で公開している授業はこれだけではないことが判明した。MITは何百というクラスの資料をアップロードしていたのである。
これが悩みを解決してくれるかもしれない、と私は考えた。MITの授業を無料で学べるのであれば、学位全体の内容を学ぶことも可能ではないだろうか?
こうして、私が「MITチャレンジ」と名づけたプロジェクトの準備作業がスタートした。私はMITでコンピューター科学専攻の学部生向けに提供されているカリキュラムを調べた。
そして、その内容とMITがオンラインで無料公開しているコンテンツを比較した。残念ながら、それは、「言うは易く行うは難し」だった。
MITの「オープンコースウェア」(授業で使われたマテリアルをアップロードし、無料公開しているプラットフォーム)は、大学に通う代わりになるようなものではなかったのだ。
公開されていない授業もあり、それは別の授業で埋め合わせるしかなかった。
また、提供されているマテリアルが少ない授業は、内容のすべてを理解するのが難しそうだった。
必修科目の1つである「コンピュテーション・ストラクチャー」は、電気回路とトランジスターを使ってコンピューターを一からつくるという内容だったが、講義の動画も教科書の指定もなかった。
そして、授業の内容を理解するには、公開されているスライドショーに書かれている抽象記号を解読しなければならない。
教材がなく、評価基準もあいまいだったため、すべての授業をMITの学生とまったく同じように受けることは不可能だった。
しかし、シンプルな方法でそれを乗り越えられそうだった。
最終試験に合格することを、目指すのである。
授業への出席を強制されることはない。宿題の提出期限もない。期末試験は準備ができればいつでも受けられて、落第しても再試験を行うことができた。
MITに物理的に通うことができないという、最初はデメリットだと感じられたことが、急にメリットになった。
私はMITの学生が受ける教育を、彼らが使うよりも少ないコスト、時間、制約で受けられるのである。
可能性をさらに探るため、私はこの新しいアプローチを使ってテスト授業を行ってみた。
事前に時間が指定されている講義に出席する代わりに、私はダウンロードしたその講義の動画を通常の2倍の速さで再生した。
1つ1つの課題を丁寧にこなし、成果が出るのを何週間も待つ代わりに、1つのマテリアルが終わるたびにテストを行うことで、自分が間違えている箇所をすぐに把握することができた。
そして、これらの方法を使えば、たった1週間でこのクラスの内容を網羅できることがわかった。ざっと計算し、誤差の余地を考えても、1年以内に残りの32のクラスすべてを学習できると私は結論づけた。