2時間の間、イシイさんを支えたのは、とにかく「生きたい!」という一心でした。
若い頃から自分がやりたいことをやってきたので、死が脳裏をかすめたとき、頭の中に浮かんだ思いは、「あれもこれも、できなくなってしまう!」ということだったそうです。
イシイさんは30代のときにすでに高血圧を指摘されていたにもかかわらず、放置していました。
40代で血圧が上が200、下が130で体調を崩したときには、さすがに少し治療したものの、途中でやめてしまったそうです。
理由は、「降圧剤を飲むと、だるくてやる気が出ず、仕事がはかどらないから」というものでした。
イシイさんは、何度も脳幹出血を予防する機会はあったのに、それを無視し続けたことになります。
脳幹出血を発症させて初めて、「医者の言うことを聞いて健康を気にしておけばよかった」と後悔したそうです。
イシイさんは一命は取りとめたものの、後遺症で左半身が動かなくなりました。医師からは、二度と歩けないという宣告をされてしまいます。
そんな絶望の中にいたイシイさんを救ってくれたのは、理学療法士のひと言でした。
「なんとかなるかもしれません。一緒に頑張りましょう!」
理学療法士は、リハビリのプロです。
「歩けるようになる」とは言っていません。
「なんとかなるかもしれない」と言っただけです。
それでも、一緒に頑張ってくれる人がいるということがイシイさんを強く支えました。
何ヵ月も左半身がまったく動かなかったイシイさんでしたが、あるとき、左手の親指と人指し指がわずか1ミリですが動いたのです。
そのときイシイさんは、「細胞がつながった!」と思ったそうです。
すると、それからどんどん身体が動くようになっていき、1週間後には支えてもらいながらではありますが、歩けるようにまでなったのです。
自分はまだまだやれる!
そう確信したイシイさんは、経営していた会社をすべて人にまかせることにして、自分は身を引きました。
今はリハビリだけに集中して、回復したあかつきにまた新しく会社を起こすことを考えたのです。
そして2年後、実際にその思いを叶え、社会復帰を果たします。
イシイさんは言います。
「イメージが大事! 願えば叶う!
治ると思えば治る!
医者のマイナスな発言は一切信用してはいけない!
倒れたあと、医者は最初、絶望的なことしか言わなかった。
『二度と歩けません。一生車椅子生活です』
もしもあのとき、医者の言葉を信じてしまっていたら、今でも歩けないままだった。
何より健康が大事。仕事なんて辞めたってなんとかなるし、健康だったらまた始められる。医者じゃなきゃわからないこと、患者じゃなきゃわからないことがあるのだから、お互い協力していかないと病気は治らない。
『いい先生に出会えてよかった』
『あなたの協力で病気がよくなったし、あなたのような患者がいたから、次からはもっといい治療ができる』
そんな相互信頼関係が必要だと思う」
イシイさんとは逆に、医師のひと言に支えられてつらく厳しい治療を乗り切った人もいます。