値上げ要求の態度から分かる
管理会社の本音

 管理会社が契約解除を求めてくるケースでは、大きく次の二つのパターンがある。

 1.「どうしても契約を解除させていただきたい」

 もし、管理会社がこうした態度に出てきた場合、その管理組合は管理会社から見て“大きなお荷物”のような存在になっているケースが多い。

 例えば、「管理組合から過剰な要求がある」「毎日のように理事や区分所有者から電話がかかってくる」「モンスタークレーマーがいて手に負えない」など、管理会社の手に余る状況になっているようなマンションが該当する。

 管理会社にしてみれば、受け取っている管理委託費以上の負担があり、その対応に充てているフロント担当者などのリソースを、できれば別の管理組合に向けたい、というのが本音だ。

 仮に、少しばかり管理委託費を値上げしてもらったところで、負担の多い業務に会社のリソースを割かなければならない状況は変わらない。であれば、“お荷物”マンションとは契約を解除して、もっと別の“うまみ”のあるマンションに乗り換えるほうが得策だと考えるのは当然だろう。だから、「どうしても契約を解除させていただきたい」という態度で出てくるわけだ。

 この場合、管理会社は管理組合に対して、リプレイス(管理会社変更)のためのコンサルタントの紹介や、リプレイスまでの助言、指導など、思いのほか丁寧に対応してくれる。「契約を解除させてくれるなら、引き継ぎまでは丁寧にやりますよ」という、言ってみれば管理会社からの「お餞別(せんべつ)」のようなものである。

 2.「ぜひ、管理委託費の値上げをお願いしたい」

 管理会社が強い態度でこのように申し入れてきた場合は、管理会社にとって実際に「今の管理委託費では、これ以上やっていくのはかなり厳しい」という状況だ。

 管理員や清掃員、コンシェルジュなど、マンションの管理業務は人間の労働力に頼る割合の多い労働集約型産業であり、人件費率が非常に高い。

 また、彼らは基本的に管理会社の社員ではなく、下請けや孫請けで雇用されたパートタイマーであり、その賃金も最低賃金、あるいはそれに少しばかりのプラスアルファ程度の設定となっている場合が多い。そうした中で、最低賃金の引き上げが必須となれば、管理会社にとっては大きな打撃となる。

 バブル崩壊後、30年近くもデフレ経済下にあった中では、管理組合に対して「管理委託費の値上げをお願いしたい」などとは口が裂けても言える状況ではなかった。しかし、最低賃金の引き上げが社会全体の共通認識となってきたために、ようやく管理会社が対等な立場から値上げを要求できるようになった、というのがここ数年の状況だ。

 管理会社としては、最低賃金の上昇を受けて利益が圧迫されているという実情にあることから、値上げをしてもらえないと本気で立ち行かなくなる管理組合に対しては、かなり強気で臨んでくる。「値上げを受け入れていただけないなら、契約解除も視野に入れざるを得ない」と、契約解除を人質に取るような管理会社もあり、私のところにもそうした値上げ要求の圧力に困った多くの管理組合から相談が寄せられている。

 一方で、最低賃金がどんどん引き上げられているにもかかわらず、「管理会社から値上げの相談などは一言もない」というところは、管理会社にとってもうけの多いマンションである確率が高い。

 最低賃金が多少上昇しようが、管理会社の利益を圧迫するほどのダメージはないわけで、完全に管理会社の“食い物”にされているマンションと言っていいだろう。