生活保護の収入認定は
「貧困の罠」そのもの

 生活保護の収入認定の仕組みは、一度生活保護で暮らし始めた人々を永遠に「生活保護の世界」に閉じ込める「貧困の罠」そのものだ。とはいえ、朝霧さんは希望を奪われているわけではない。

「ここでは、多数の障害者が生活保護で暮らしています。市全体として、生活保護や福祉制度についての理解が深く、先駆的ではないかと感じています」(朝霧さん)

 朝霧さんの居住地、関東地方A市の福祉事務所とケースワーカーは、非常に柔軟に制度を運用しているのだろうか。筆者は幸いにも、朝霧さんの暮らすA市福祉事務所の現職ケースワーカーから話を聴くことができた。

 A市の業務は、どのように進められているのだろうか。

「当事者の方々を最もよく知っているのは、担当ケースワーカーです。まず、定期訪問を行って、お話を聞いたり暮らしぶりを拝見したりして、理解します」(A市ケースワーカー)

 社会福祉法では、ケースワーカー1人あたり80世帯が標準とされている。標準数がおおむね守られていれば、1年あたり2回以上の訪問調査を行うことには大きな無理はない。しかし、標準数を大きく上回って業務量が過多になっている福祉事務所は珍しくない。

「1人1人を理解し、次にどういう支援をしていけば『自立』につながるかという方針を立てます。ただ、それだけだと、担当者の裁量や担当者によるブレが大きくなりすぎるという問題もあります」(A市ケースワーカー)

 そして、組織として方針を統一し、上司にあたる査察指導員(係長相当)や課長の決済を経た上で、各個人に対する支援の方向性を確定する。

「負担が大きな福祉事務所では、不適切になることもあるかもしれません。この状況は、打破しなくてはならないと思っています」(A市ケースワーカー)