そう言うと、「民間病院は地域医療を守るという役割が」という話になるが、コロナによって日本では他の病気や事故で亡くなる人が激減している。厚生労働省の人口動態統計(速報)によると、20年に死亡したのは138万4544人で、前年より9373人も減っており、これは11年ぶりのことだという。

 4月に発表された人口動態統計月報令和2年11月分を見ると、昨年の1月から11月までのインフルエンザによる死者は前年の同じ時期と比べてマイナス2371人、肺炎の死者も、前年同時期比でマイナス1万5645人となっている。また、ステイホームの影響か、事故やけがで亡くなる人も減っている。つまり、コロナ医療はひっ迫しているが、「通常医療」の中には、これまでよりも余裕ができている部分もあるはずだ。

「非国民狩り」よりも目の前の問題解決を

 未だ整わない医療体制の課題を、日本医師会をはじめとしたリーダーシップでしっかりと調整し、ひっ迫している医療にどう人を回していけるのかということを議論することが、早急に求められる。

 少なくとも「日本の新規感染者数はそれほど少なくないぞ!」とか「さざ波じゃない大波だ!人命を軽視するな」などムードに流されて「非国民狩り」をしているよりも、よほど「人命」のためになる。

 …なんてことを思っていた矢先、日本医師会の中川俊男会長に「文春砲」が炸裂した。まん延防止重点措置の最中、自民党議員の政治パーティを自ら発起人として開催したという。

「人流を止めないと、医療崩壊だ」と国民に唱え続けた当の本人がパーティというのは、かなり批判を浴びるだろう。これまでの政治的影響力や発言を踏まえれば、高橋氏の「さざ波発言」よりも遥かに深刻な問題で、場合によっては「人命軽視」などと炎上してしまうのでは…と個人的には思ったが、世間もマスコミも高橋氏の発言に比べて優しい。

 コロナ禍の中では「医療従事者」は何をしても正当化されるということなのだろうか。残念ながら、今の日本社会は、「はだかの王様」を前にしても、「見事なお召し物ですね」とこびを売っておくのが「正解」ということなのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)