「人命軽視」しているのは高橋氏ではなく
日本の医療体制そのものなのに…

 「はだかの王様」の中で誰が最も悪いのかといえば、「バカには見えない服」で王様を騙したペテン師である。しかし、この物語の中で、ペテン師はすべての「元凶」のくせに何の罪も責任も追及されずうやむやになっている。

 実は「さざ波騒動」もまったく同じだ。高橋氏や菅首相が「人命軽視」だと叩かれているが、冷静に考えれば本当に人命を軽視しているのは、「さざ波程度の新規感染者で崩壊寸前になってしまう脆弱な医療体制」であることは明白だ。

 ワクチン接種が進む前から、日本よりも桁違いに感染者の多いイギリスやドイツなどG7の国々で、「医療崩壊の危機が迫っている」というニュースはいまやほぼない。当初は医療現場も混乱したが、1年という時間をかけてしっかりと医療の緊急時の体制を整えたのだ。

 しかし、日本は1年前から現在に至るまでずっと「医療崩壊の危機」が叫ばれ続けている。ニューヨークやロンドンと並ぶ、世界有数の大都市である東京都が、重症者50人程度で「通常の医療に支障をきたします」というアラートが鳴るという、世界的に見ても極めてユニークな現象が起きている。「脆弱すぎる医療体制」のせいで結果として、「人命」を著しく軽視してしまっているのだ。

 では、なぜこうなるのか。本質的なところを言ってしまうと、人員的にも設備的にもコロナ患者の受け入れが難しい民間の医療機関が山ほどあって、一部の公立・公的病院等に患者が押し寄せているという「医療偏在」の問題が大きい。

 厚生労働省が急性期病棟を有する4297医療機関を対象に今年1月10日まで報告の上がったものをまとめた「公立・公的等・民間別・病床規模別の新型コロナ患者受入可能医療機関等」という資料によれば、400床以上の大きな病院は公立病院、公的病院等、民間病院すべてが80〜97%程度でコロナ患者の受け入れ実績がある。

 しかし、200床以上400床未満になると、公立病院が約86%、公的病院等が約80%なのに対して、民間病院の受け入れ実績は51%と急激に落ち込む。100床以上200床未満になるとこの傾向はさらに強まり、公立病院が約45%、公的病院等で約45%なのに対して、民間病院の受け入れ実績は約24%だ。

 つまり、連日のようにマスコミで繰り返されている「医療従事者の皆さんに感謝しましょう」「感染拡大によって帰宅できないほど医療従事者が疲弊しています」という呼びかけに登場する「医療従事者」というのは、正確に言えば、「公立病院、公的病院、そして大きな民間病院などで働く一部の医療従事者」が大部分を占めている。

 もちろん、民間病院経営者の業界団体である日本医師会はこのような受け入れ実績の少なさは、「設備や人員の問題で受け入れできない」「民間の地域医療支援病院が公的に含まれている」などと説明し、民間病院も決してサボっているわけではないと主張されている。

 もちろん、筆者もそう思う。ただ、緊急事態宣言やまん延防止重点措置で、日本国民の多くが日常をあきらめ、これまでの仕事のやり方を変えざるを得なくなっているのだから、民間病院も「無理なものは無理」で終わるのではなく、従来の医療体制を根本から見直して、コロナ医療に協力できる民間病院を少しでも増やす方法を考えていただきたいのだ。