研究所で200人ほどの社員を集めた対話集会では、「これまで経営陣は何度も会社を変えると言ってきたが、成功したことはない。外部から来た新社長に本当にできるのか」と面と向かって尋ねる社員がいた。また、営業担当者たちとの懇親会の席では、「私は入社7年目だが、これまで一度も販売目標を達成できていない。それが悔しい」と訴える社員もいた。

 こうした対話を通じて、魚谷氏は改革に自信を持った。「この会社には人材も技術もそろっている。会社を変えたいと真剣に思っている社員を開放すればいい」。

 現場・現地主義を徹底するために組織をフラット化し、国内は本社と販社を一体化した。グローバルには米州、欧州、中国、アジア・パシフィックなど6つの地域本社制とし、東京の本社から地域本社に権限を大幅に委譲した。

 業績が低迷していたために削られがちだった研究開発費とマーケティング投資も増やした。売上高対比で1.8%だった研究開発費を2020年に3%に増やすとともに、約400億円をかけて新たな研究所をつくることを約束した。マーケティングには3年で約1000億円を投資する、決して削減しない、と断言した。

 構造改革の結果は、業績と企業価値の急成長となって表れた。資生堂が現場・現地主義で成長していることを知り、特に海外では優秀な人材が転職してくるようになった。現在、地域本社のトップは日本を除いて全てが外国人人材、本社で経営の執行を担う19人のエグゼクティブオフィサーのうち3人が外国人人材となっている。

 ちなみに、2021年1月時点で国内管理職の女性比率は約35%だが、これを50%に引き上げることを目指している。

「激しい市場環境の変化に柔軟に対応するには多様性が欠かせない。だが、多様であることは、ばらばらでいいということではない。パーパスに向かって価値観を共有できてこそ、多様性が力を発揮する」と魚谷氏は語る。