Point5
沈黙を貫ける企業としての胆力

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 最後にもう1点、Appleの強さの秘訣に触れるなら、それはどんなに画期的な技術やアイデアがあろうとも、ベストなタイミングが来るまでは秘密を貫き、おくびにも出さないという点が挙げられる。

 たとえば、一般の企業では、ある製品に投入された新技術があれば、そのすべてを発表会で強調するだろう。ところが、Appleはすでに組み込まれた技術であっても隠し通し、別の製品発表の際に、その技術のインパクトを利用して新しさを印象付けることもあるのだ。

 分かりやすい例では、アルミ合金の固まりから切削加工で筐体を削り出すことで高い剛性と軽量化、そして組み立て工程の簡略化を実現するユニボディ構造がある。ユニボディ構造は、初代MacBook Airで初めて導入された。しかし、この製品には驚異的な薄さやラッチレスで開くLCDディスプレイという大きな特徴が他にあったため、発表会では加工技術とそのメリットへの言及はまったくなかった。そして、同じ年にMacBook Proが発表された際に、大々的にユニボディ構造をアピールした。それは、MacBook Airに比べて大きく重いMacBook Proは、より高速処理ができるということ以外にメディアの注目を集めるポイントがなかったため、それをユニボディの話で補うことで、脚光を浴びるようにしたのである。

MacBook Pro発表時のプレゼン映像。MacBook Pro発表時のプレゼン映像

 どのような技術や製品・サービスも、発表や公開のタイミング次第で話題をさらうこともあれば、そのまま忘れられてしまうこともある。Appleは、最も注目を集めたい製品を最大限にアピールしたい場合には、それ以外の製品発表を(かなり大きな仕様変更があっても)事前のサイレントアップデート(発表会などを経ずに更新だけ行う)で済ませて、メインの製品だけにスポットライトが当たるようにする。つまり、他の製品が多少犠牲になっても、総合的なメディアの告知効果を考えて、このような判断ができるのだ。

 ここで挙げてきたような要素を導入できれば、他の企業もAppleのような業績を挙げられる可能性もあるが、そのためには強力なリーダーシップと柔軟な組織構造が求められる。Appleは、そのようなシステムを40年余りかけて築いてきたといえるだろう。