地上戦型産業構造を生きてきたトップは終わり
企業は40代に世代交代せよ! 

――この激動のさなか、日本のリーダーたちに必要なことは何でしょうか?

冨山 冒頭で例えたように、サイバー空間というのは、空中戦ですから空間認識が大事です。しかし、日本の教育システムは「正解があって、そこに真っすぐたどり着くための訓練」中心なので、答えのないことを深く考え抜くといった力を鍛えていません。そのためには自分なりに問題を抽象化し、普遍的な原理原則を見いだす必要があります。抽象と具象とを行き来するような思考作業能力が磨かれていないのです。さらに、就職しても、ピラミッド構造の組織のヒエラルキーの中でもまれ、その中で順調に上っていけた人が偉くなる構造です。そのプロセスにおいて、抽象的な世界観を持ち、俯瞰でものを考えるし、大それたそもそも論を考えるということを多くの人はやっていないわけです。

 残念ながら、従来の地上戦型産業構造の中で安寧にやってきたトップに、デジタル化時代においてリーダーシップを発揮できる資質があるとはいえません。

 私は、産業界のリーダーはもう思いきって40代に世代交代したほうがいい、と考えています。対応していける世代の人たちに手渡さないと無理です。それは産業界だけに限らず、政策立案をする行政側も含めて、時代に適応できる人に主導権を渡していかないといけないでしょうね。

宮田 そのリテラシーを磨きながら、ビジネスの最先端に向き合うことは、この数年で一気に必要になってきた教養なのではないかと思います。


日本のデジタル化は周回遅れ、今必要なリーダーとは?冨山和彦氏・宮田裕章氏対談

冨山和彦
経営共創基盤(IGPI)グループ会長  1960 年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。カネボウなどを再建。解散後の2007 年、IGPIを設立し代表取締役CEOに就任。数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。2020 年10月より現職。同年12月、地方創生を目的とした投資・事業経営会社「日本共創プラットフォーム」(JPiX)設立を発表、代表取締役社長に就任。パナソニック社外取締役。『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(ともに文藝春秋)、『「不連続な変化の時代」を生き抜く リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)など著書多数。

日本のデジタル化は周回遅れ、今必要なリーダーとは?冨山和彦氏・宮田裕章氏対談

宮田裕章
慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授 1978年生まれ。専門はデータサイエンス、科学方法論。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。2015年より現職。専門医制度と連携したNCD、LINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、科学を駆使し社会変革を目指す研究を行う。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーも務める。著書に『共鳴する未来』(河出新書)、『データ立国論』(PHP新書)がある。