「試用期間中は通常時より解雇理由の範囲が広がりますが、『上記の理由に当てはまるから』といって、即刻解雇の取り扱いができるわけではありません。解約権留保を行使するためには、分かりやすく言うと下記の要件が必要です」

<試用期間後に解約権留保を行使できる要件>
○適格性判断の根拠(勤務成績・態度の不良)かどのようなものであるかを具体的に証明できること。またこの状況を改善するために企業が相応の努力をしたことが認められ、それでも事態が改善しないため、解雇が妥当であることを示せること。

〇企業が採用決定後に調査した結果、または試用期間中の勤務状態等によって、当初知らなかった(または知ることが期待できなかった)事実が判明し、その事柄により「該当社員を継続して雇用できない」とする判断が妥当であると認められること。
→例えば学歴等の経歴詐称が発覚した場合、それのみをもって解雇する扱いはできない。

○特に新卒社員の場合は、もともと社会人としての勤労経験に乏しいため、相応の指導、教育等考慮しなければならない。

「じゃあ、結論として、A君の場合はどうなるんですか?」
「Aさんが上司の指導に従わず職場の雰囲気が悪くなったのは事実ですが、現在のところその状況によって会社に損失をもたらしたわけではありません。指導方法を変える等の改善余地はあるかと思いますので、現状ではA君を解雇するのは難しいと思われます。ただし、就業規則等に明記があり、Aさんと会社で合意すれば、試用期間を延長して再教育することは可能です」
「分かりました。もう一つ質問があります。試用期間終了後A君を資材管理課へ配属替えして1年契約の社員として雇用する扱いはどうでしょうか?」

試用期間終了後に、
正社員ではなく契約社員として雇用することはできるか?

<労働契約内容の変更と配置転換について>
○試用期間は、本採用後とは別の労働契約というわけではなく、試用期間、本採用後を通じて1つの労働契約である。
○そのため、その途中で正社員から契約社員への変更等労働条件を引き下げる場合は、企業で一方的に行うことはできず、労働契約法8条に基づき、労働者の同意が必要となる。Aの例のように試用期間経過後であっても同様である。
○たとえ本人が営業の仕事を希望していた場合でも、職務を限定して採用していなければ、営業課から資材管理課への配置転換は認められる。

 D社労士の見解を聞いたC社長は、Aを資材課の契約社員にすることをあきらめ、翌日の管理職会議で出席者全員に、Aの実情を説明した上で受け入れる部署を募った。すると経理課長が手を挙げた。経理課は3月末で課員が2名退職し、人手不足で困っていたのだ。

 C社長は「大丈夫か?」と念を押したが、経理課長は「とにかくウチの課は忙しいので、A君が瞑想する暇なんかないですよ」と笑いながら答えた。