だが伊藤忠は、この発電所の完成と営業運転開始を見届けた上で、25年間の契約満了を待たずに売却交渉を模索する方針を固めた。同社の石井敬太社長がダイヤモンド編集部の取材に「供給責任を果たした上で売却交渉に入る」と明言した。

 石炭火力発電所の完工前に、事業者が売却方針を固めることは極めて異例だ。しかも電力ビジネスは、前述の通り長期売電契約が基本で利益の取りこぼしが少ない“うまみ”の大きい安定事業だ。

 にもかかわらず、伊藤忠が売却方針を固めたのはなぜか。そうせざるを得ないほど世界的な脱炭素の流れが加速し、撤退圧力が強まっているからに他ならない。

 伊藤忠は、温室効果ガスの排出量を40年までにオフセットゼロ(排出分と削減貢献拡大による差し引きゼロ)とする目標を掲げている。削減効果の大きい石炭火力発電所の完全撤退を他社に先駆けて実現し、目標達成への具体的な道筋を付ける構えだ。

 ただし、実際に売却できるか否かは不透明だ。三井物産も、インドネシアやマレーシアなどで稼働する石炭火力発電所の売却を模索するが、交渉成立には至っていない。

 三井物産の堀健一社長は「資産売却を視野に入れて交渉を続けている。経済性の確保が前提だが、一定の保有資産を売却しなければ50年のネットゼロ・エミッションは実現できない」と語る。

 伊藤忠や三井物産は、これまでより踏み込んで石炭火力からの完全撤退に動き始めた形だ。では競合他社はどうか。いずれも新規の石炭火力は手掛けず、中長期で排出量を削減する目標を一様に掲げてはいるが、撤退への「本気度」について温度差があることは否めない。

 中には環境団体から「グリーン・ウォッシュ」(見せ掛けの環境保護)と指弾されてやむなしの問題案件もある。

 なお、「ダイヤモンド・オンライン」の特集『商社 非常事態宣言』では、石炭火力発電が多い商社のランキングと、環境団体や機関投資家などからの撤退圧力が強まるのは間違いないプロジェクトの中身について、『【スクープ】伊藤忠が石炭火力発電から完全撤退へ、商社が飲み込まれる脱炭素の激流』で詳報している。

>>【スクープ完全版】を読む