こうなると、ワクチン接種の順番が回ってくるのをひたすら待ってこのまま雌伏の期間を過ごすのか、それとも通勤・通学や不要不急と思われる人の往来が減少しないなかで(昨年4月の1回目の緊急事態宣言時よりも人流が増加している事業集積地も多い)、居住エリアを現在の場所から都市郊外などに変えることで日常生活の安心を得るべきなのか、自宅で自問自答する時間だけは増えているように思える。

 とはいえ、生活スタイルを変えたくても仕事との関わり方を変えることが出来なければそれは実現しない。したがって、どれだけ多くの人が都市郊外などに移住するかは、テレワーク(広義ではオンライン授業も含まれると考えられる)の普及・定着状況や、企業によるテレワーク推進への取り組みにかかっていると言ってよい。

 そもそも、広く「働き方改革」が必要とされ関連法が相次いで整備された2018年当時は、人口減少による今後の労働力不足が深刻化することを考慮し、労働環境を改善して(1)長時間労働の是正、(2)雇用格差の是正(同一労働同一賃金など公正な待遇の確保)、(3)多様な働き方の実現――という理念を実現することが強調されていた。

 当初は法整備によって改革を推進していこうとの機運も高まったが、実際に働き方を担う企業側では、やはりこれまで慣れ親しんだ仕事の手法やコミュニケーションの取り方、社員の意識も含めて容易には変えられないことばかりで、ノートPCとインターネット接続環境さえあればどこでも仕事ができるという状況をなかなか提供することができなかった。

 むしろ、そのような仕事のスタイルを実現している人を「ノマドワーカー」と呼称して切り離すことで、当初の理念を実現することよりも、これまで何ら問題のなかった効率的な業務フローやコミュニケーションのあり方を維持しようとして、“働き方改革が推進できない理由”を探し続けていたような印象すらある。

 このなかなか進展しない「働き方改革」を大きく前に進める“原動力”となったのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。