浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』 飯田結太 著 プレジデント社 1760円(税込)

「ネット通販のお客様が増えるほどに、来店客数は年々大幅に増えています」と自著『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』の中で打ち明けるのは、東京・浅草のかっぱ橋商店街に店を構える老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目店主で株式会社飯田代表取締役社長の飯田結太さんだ。

 飯田屋は、「積極的に過剰在庫を目指す」「在庫回転率を無視」「『売るな』という営業方針」「売り上げ目標やノルマがない」といった小売業の常識に反した目標を掲げる。そうした異端の店舗経営にもかかわらず、全国はもとより海外からも客が押し寄せる繁盛店となった。飯田さんは、アマゾンの企業理念「地球上で最もお客様を大切にする」に対抗し、「地球上で最も目の前にいるお客様を大切にする」と誓っている。

 本書を読むと、飯田屋はこの「目の前にいるお客様を大切に」を、尋常ではないくらいに徹底していることがわかる。先に挙げた「常識外れ」の方針も、すべからく「目の前のお客様を大切にする」ためのものだ。

飯田屋に「売り上げ目標」や
「ノルマ」が存在しないワケ

 飯田屋は、33坪の小さな売り場に、フライパンや包丁、ピーラーなどの料理道具を約8500品目そろえている。例えばおろし金だけで230種類もあり、訪れた客は、ニーズに合わせて欲しいものを選ぶことができる。はっきりとニーズが固まっていない客は、「どんな料理を作る予定ですか?」「食感の好みは、ふわふわ? ジャキジャキ?」「味わいの好みは、甘め? 辛め?」「誰が、誰と、いつ、どんなシーンで使うのですか?」といった店員との会話から、自分が本当に必要としている商品を特定し、購入することができる。

 これだけの品目をそろえているのは、来店客のどんなニーズにも対応しようとする徹底した店の姿勢の表れだ。もし客が欲する商品が店頭になければ即座に取り寄せるが、それでも見つからない場合には、メーカーに掛け合って作ってもらうこともあるそうだ。