コスト度外視でとことんまで
商品を探し続ける店員たち

 飯田屋の名物店員の一人である薮本達也さんは「人を喜ばせることに金額は関係ありません」と言い切っている。彼は、客の困り事が大きくても小さくても、売り上げになろうがなるまいが関係なく「困り事をどうにか解決してあげたい」という一心で接客しているそうだ。

 日本で飲食店を展開しようとしている外国人が大型調理機械を探して来店した時も、薮本さんは「調理機械は扱っていない」と追い返すようなことはせず、要望に沿えそうな他店を丁寧に紹介したという。もちろん一銭にもならない。だが、その後その客は、しばしば飯田屋を訪れ、薮本さんにいろいろな情報提供をするようになった。絆と信頼感が生まれたのだ。

 客が買う商品を決めようとするタイミングで「お時間は大丈夫ですか?もっといいものがないか探してもいいですか?」と尋ね、とことんまで客に合った商品を探し続ける店員もいる。「この世にあるか、調べてみます!」と、決して諦めずに商品が存在するかを調べ、どうしても見つからなければ自ら設計図を作りメーカーに提案することまでする店員も。

 これらはいずれも、人件費などのコストを考えればとうてい割に合わない非効率な接客だ。だが、「喜ばせ業」を貫く飯田屋としては、模範となるものなのだ。

 お金が絡むと、私たちの行動は制限される。飯田屋の店員の接客で、「コストがかかる」と考えてしまえば、とことんまで商品を探し続けることも、ましてやメーカーに提案することもできなくなる。だが、いったんお金のことは忘れ、客と誠心誠意向き合い行動することで、お金では買えない信頼や絆が構築できる。

 飯田屋のような、客の満足を第一義に考えるリアル店舗が増えてくれば、私たちは「しかたがない」と諦めることが少なくなるのではないか。何しろ、飯田屋の店員は「諦めない」のだから。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
かっぱ橋の老舗道具屋がコスト度外視で「過剰在庫」を続ける理由
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