目の前にある課題をもとに皆が協働していく価値

 いまや、SDGsは小・中学生にも学校の授業を通じて知られている状況だ。その、 “人類共通の課題カタログ*11 ”とでもいうべき理念や17のゴールの具体的な内容を教科書から頭に入れることも重要だが、今回の青山学院大学の授業のように、企業(産)と地域行政(官)と大学(学)が連携し、学びの場を通して、産・官関係者が学生とともに考えることが何よりも大切だと実感した。

*11 「SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略である。2015年に国連総会で採択され、2030年までに各国政府や民間などの努力で達成する世界的な課題をまとめた『2030アジェンダ』の中核をなすものだ。たとえるなら、『みんなでこんな世界をつくろう!』『こういう未来ができたらいいね』という“人類共通の課題カタログ”と言えるだろう」(「オリイジン2020」巻頭特集より引用)

 田中(坂部)助教は、今回の授業を次のように総括する。 

「『持続可能な育成プロジェクト』の佐々木さんのコーディネートによる、遠野市役所の西村さんとアキュラホームの西口さんのご講演では、国内の官や企業のSDGsへの取り組みが実例とともによく分かりました。学生たちは、自分の身の回りの課題から、それを社会課題へと繋げ、そして、課題解決に向けたアイデアを提示するまでの道筋はどのようなものであるかを、事前課題や講義、授業内のグループワークを通じて学ぶことができたようです。社会の先輩たちの工夫や苦労を含めて、他者との協働の実態を肌で感じられたことも良かったのでは、と思います」

 これまでにも複数の学校や企業を結び付けてきた「持続可能な育成プロジェクト」の佐々木さんも田中(坂部)助教の言葉を受けて語ってくれた。

「今回は『プラスチックを減らす生活』や『洋服の廃棄を減らす方法』について、学生さんたちがディスカッションを行い、アウトプットしましたが、学生の皆さんの意見から、僕はもちろん、遠野市の西村さんや木のストローの西口さんにも新たな発見やSDGsへのさらなる気づきがあったようです。コロナ禍で、オンラインが当たり前に使われるようになり、学校や企業・団体の立地場所という物理的な距離の障壁が低くなり、たとえば、地方在住の方と首都圏の企業の距離が近くなったことも、産官学のコラボレーションにとっては大きいですね」

 新型コロナウイルスの感染対策が行われている教室内で学生の質問に答えていった西口さん(アキュラホーム)、モニター越しに遠野の空気感も伝えた西村さん(遠野市役所)――社会人の二人と学生たちの「距離」は、まるで昔からの知り合いのように近いものにも思えた。

「社会に一歩踏み出せば、他者との関わりの中で自分も生かされていることを実感できるのではないでしょうか。学生の皆さんには自分の持つ力を信じ、目の前にある課題から取り組んでほしいと思います」

 取材の最後に田中(坂部)助教はそう結んだ。

 SDGsのゴール達成は、人と人の関わり合いからなされていく。一人ひとりの意識や発想が社会の動きに変革していく可能性を、今回の授業が「オリイジン」に教えてくれた。

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「SDGsの誕生理由とは?今後どんな成果を実現していくのか、改めて振り返ってみる」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。