一方、名義預金ではないと認められたケースもある。

 父親が息子名義の口座を作って預金をしていた。通帳やカード、銀行印も父親の手元にあったので、通常であれば名義預金と見なされていただろう。

 ところがある日、息子が自分名義の預金があることに気がついてしまった。息子は父親の許可を得ないままカードを持ち出し、銀行印が分からなかったので自分の印鑑に改印して、自分のお金として引き出して使ってしまったのだという。

 こうなると、子ども自身が使えるお金として認められるので、晴れて名義預金ではなくなったのである。この場合、父親が「まだ正式にお金を贈与したわけじゃない、横領だ!」と怒り、親子げんかになってしまったのだが……。

 贈与は、贈与する側とされる側の双方にその意識があったと認められなければならない。親子であれば契約書まで作る必要はないが、「贈与した・贈与された」と意思がきちんと確認できる状態にしておくことが、トラブルを避ける上で不可欠である。

 そして相続の際には、被相続人と相続人の財産を明確に区分しておき、それらの財産がどのように形成されたのか説明できるようにしておくことが重要なのだ。

相続税はターゲットにされやすい
課税の網は強化される流れ

 冒頭に述べたように、相続税法改正によって相続財産の基礎控除額が大幅に引き下げられた。さらに今後も、相続税率の引き上げなど、相続税への課税の網は強化されていくと見るべきだろう。

 今回取り上げた生前贈与についても、現在は相続開始から3年以内に受けた贈与は相続財産に加える決まりになっている。これを「相続開始から10年以内」に期間を延ばそうとする動きもある。

 昨今、日本社会も格差拡大が問題視されるようになり、「相続税をもっと高くすべきだ」との論調も見られるようになってきた。税務当局もこうした世論の動きに敏感であるので、「今、相続税は取りやすい」と考えている節もある。

 少子高齢化に加え、昨年からの新型コロナウイルス感染拡大によって、政府も大幅な財政支出を余儀なくされた。このツケをどこかで帳尻合わせしようとした際に、相続税はそのターゲットになりやすい。そんな事情も意識しながら、賢く相続税対策を行っていきたいものだ。