僕はレギュラーでしたが、実は、その大一番の試合での僕の出番はとても少ないものでした。

 直前の合宿で怪我をしていたからです。そして、彼のプレイをベンチからずっと見ていました。素晴らしいプレイでした。周りの選手よりも小さくて、足も遅いのは明らかなのですが、その短所をカバーするために、彼は、まるで「仙人」のように相手チームのプレイを「先読み」していて、ピンポイントで的確なタックルを仕掛けていたのです。

 僕は、彼のアメフトに対する姿勢を改めて思い返しました。

 彼は、他のメンバーが練習を終えても、ひとりで基本練習を繰り返していましたが、それだけではありませんでした。

 オフの日でも、クラブハウスでライバル校の試合を録画したビデオを何度も何度も見て、研究をし尽くしていました。だからこそ、相手チームの動きを「先読み」して、まるで「仙人」のように相手の意表をつくプレイをすることができたのです。「あいつ、ほんまにすごいヤツやな……完全に俺の負けや」と思わずにはいられませんでした。

 そして、彼に言われた言葉を噛み締めていました。

 怪我をした僕に向かって、彼は、こう言ったのです。

「お前、何まったり怪我とかしとんねん。俺にお前のような身体能力があったら、全然違うで」

 言葉は決して綺麗ではありませんでしたが、彼は僕に発破をかけてくれたのだと思います。彼の言うとおり、練習中に怪我をするのは、プレイに集中していないから、どこかに気の緩みがあるからです。そして、彼は、「お前は身体能力に恵まれているんだから、もっとしっかり練習すれば、最高のアメフト選手になれる」「もったいないことをするな」と言ってくれたのです。

 この言葉は身に染みました。

 たしかに、僕は彼に比べれば身体能力に恵まれていたと思います。だからこそ、彼のようにコツコツと努力しなくても、下級生の頃から試合に出場することができました。でも、口では「日本一になろう」と言いながら、要領よく手を抜いていた。それを、監督も見抜いていたし、彼も見抜いていた。そして、結局、僕は大事な局面で怪我をして、大切な試合でプレイすることがほぼできなかったのです。

結果を出し続けるのは、「勝ち負け」にこだわる人ではなく、「やるべきこと」をコツコツ続ける人写真はイメージです Photo: Adobe Stock

短期的なKPIは捨てる

「要領のよさ」だけでは、「コツコツ努力する人」には勝てない――。

 僕は、営業マンになってから、何度もこのことを思いました。仕事をするうえでは「要領のよさ」も大事だけど、いちばん大切なのは「コツコツ努力すること」。これを絶対に忘れてはならないと思ったのです。

 そして、営業マンにとって何が大切なのかと自問しました。

 僕の出した「答え」は、とにかく多くのお客様にアプローチをしながら、アポイントをくださったお客様一人ひとりに真剣に向き合うこと。目の前のお客様のことを真剣に考えて、丁寧に誠実に仕事を進めること。これをコツコツコツコツとやり続けることが、営業マンに求められているのだと思うのです。

 だから、僕はKPIを捨てることにしました。