2 国民健康保険に加入する被用者のための傷病手当金

 1で見たように、サラリーマンなどの企業で働く人が加入する被用者健康保険は傷病手当金が法定給付で、要件を満たせば、加入者は誰でも給付を受けられる。だが、自営業者などが加入する国民健康保険ではそうではない。国民健康保険は厳しい財政運営を強いられているため、傷病手当金は任意給付という位置づけなのだ。

 これまで、都道府県国保で、傷病手当金の制度を設けているところはなかった。また、特定業種で作られている国保組合も、医師国保や歯科医師国保、土木国保など、財源に余裕のある一部を除いて、傷病手当金を給付しているところはない。。そのため、コロナ禍以前は、傷病手当金は実質的には被用者保険独自の給付となっていた。

 1938年に創設された国民健康保険は、もともとは農民漁民などの一次産業従事者や、自営業者への医療給付を目的としたものだった。だが、産業構造や雇用形態の変化によって、現在は加入者の3割超が、企業や団体などに雇用される非正規雇用の労働者となっている。

 非正規雇用の労働者の中には、扶養の範囲内で働いて、家族の健康保険の被扶養者になっているパート主婦などもいるが、低所得でも自分の収入で家族の生活を支えている人もいる。そうした人は、勤務先の健康保険に入りたくても、年収などの加入要件の壁に阻まれ、仕方なく都道府県国保に流れてきている。

 だが、パートやアルバイトなどでも、企業や団体に雇われている以上、収入減は給与収入だ。彼らが加入している国民健康保険には傷病手当金はないので、病気やケガで仕事を休むと収入が途絶えてしまい、貧困に陥る可能性が高くなる。

 そこで今回、特例的に行われているのが、国民健康保険に加入する被用者への傷病手当金の給付だ。

 国民健康保険に加入している非正規雇用の労働者が、COVID-19に罹患、または発熱などで罹患が疑われて、休業せざるを得なくなった場合は、国が財政支援をすることで傷病手当金が支給されることになっている。

 1日あたりの支給額は、健康保険と同様の給付で、直近の連続した3カ月間の給与の合計を出勤日数で割った金額の3分の2。COVID-19に罹患し、働けなくなった日から3日経過し、4日目から療養のために休業している日数分。入院などが長引いた場合は最長1年6カ月間支給される。

 当初、適用期間は2020年1月1日~9月30日までとされていたが、長引くコロナ禍で特例の延長が繰り返されており、現在も給付が行われている。

 重症化して入院した場合はもちろんのこと、自宅やホテルなどで療養している間も支給対象になる。COVID-19に罹患し、療養のために仕事を休まざるを得なくなった場合は、市区町村の窓口に傷病手当金の申請をしよう。ただし、これらの措置は自営業者やフリーランスは対象にならないので要注意だ。