シニア資産30%の消費は、国家予算1・6倍分のインパクト
実は、こうした「企業活動のシニアシフト」は、単に企業や消費者であるシニアがメリットを享受するだけにとどまらない。経済の活性化と国家財政の改善に寄与するのだ。
総務省統計局による「家計調査報告」平成22年(2010年)によれば、1世帯当たり正味金融資産(貯蓄から負債を引いたもの)の平均値は、60代で2093万円、70歳以上で2145万円。一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」平成22年(2010年)によれば、世帯数は60代で1083・6万世帯、70歳以上で1191・1万世帯である。これらより、60歳以上の人の正味金融資産の合計は、482兆2884億円となる。
このうち、仮に正味金融資産合計の3割、144兆6865億円が消費支出に回ったとすると、消費税率を5%に据え置いた場合、税収は7兆2343億円となる。この数値は、消費税を現状より5%アップした場合の見込み税収アップ分13兆5000億円に対して6・3兆円ほど足りない。だが、シニアの資産が消費に回ることで、消費税をアップしなくても、これだけの税収が見込めることに注目してほしい。
すでに、消費税増税は国会で可決しているので、この話は空論に聞こえるかもしれない。だが、ここで言いたいのは、若年層に比べたシニアの消費支出によるインパクトの大きさだ。前掲の試算は消費税収に焦点を当てているが、実は、増えるのは消費税収だけではない。それ以上に、2011年度一般会計90兆3339億円の1・6倍にもなる144兆6865億円という金額が、実体経済に回ることが重要なのだ。
ただし、次回以降で詳細を述べるとおり、シニア層が正味金融資産を多く持っているからといって、それがすべて消費に結びつくわけではない。また、先行き不透明感がますます強まるなかで、60歳以上の人すべてに正味金融資産の3割どころか、2割を消費に回してもらうことすら現実的でないという意見もあろう。
だからこそ、ここに「企業活動のシニアシフト」の大きな意義がある。商品の売り手である企業が積極的にシニアシフトに注力することによって、買い手であるシニアは、より価値の高い商品や利便性の高いサービスを得られるようになる。
つまり、シニアが必要としていたが、これまで市場にはなかった、より付加価値の高い商品・サービスが多く登場するようになる。すると、「そう、こういう商品が欲しかったのよ」という機会が増え、結果としてシニアの消費も増えると予想される。
シニアの消費が増えれば、先に挙げた消費税収は増える。また、企業の売上げ・収益が増え、業績が向上すれば、法人税などの税収も増える。この結果、国の税収が増え、財政改善に寄与することになる。財政が改善されれば、ギリシャのように財政破綻することもなく、国際的信用を維持でき、シニアも安心して老後を過ごせるようになるのだ。