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三井物産は2026年5月に発表した新たな中期経営計画で、現状8000億円台の連結純利益を29年3月期に1.1兆円にまで引き上げる目標を掲げた。31年3月期(30年度)にはさらに3000億円積み上げ、1.4兆円超にまで伸ばす野心的な計画だ。ところが、新中計には資金配分やレバレッジの数値目標が明記されておらず、市場からは「分かりにくい」との厳しい声が漏れる。なぜ、三井物産は計画を曖昧にしたのか。連載『クローズアップ商社』の本稿では、明確な数値目標を掲げることを嫌った経営陣の“深謀遠慮”に迫る。(ダイヤモンド編集部 大川哲拓)
大型投資案件が2030年度以降に次々と収益貢献!
新中計でネットDERや資金配分を明示しなかった訳
「2030年、そしてその先へ」――。
三井物産は26年5月に発表した「中期経営計画2029」で上記のテーマを掲げた。29年3月期までの3年間で、連結純利益を26年3月期の8340億円から1.1兆円へと引き上げる計画だ。
さらに同社は、5年後に当たる31年3月期(30年度)の「あり姿」として、純利益1.4兆円超、ROE(自己資本利益率)13%超(足元は10.2%)という野心的な目標を打ち出した。
現状から5500億円超の利益を積み増す計画だが、この数字は単なる“絵に描いた餅”ではなさそうだ。5500億円超のうち約3割に当たる1500億円超は、前中計までに投資を決めた大型案件の収益化によって達成が見込まれるからだ。
その代表例が、約8000億円を投じて権益を獲得した豪州の鉄鉱石事業「ローズリッジ」だ。これにモザンビークやアラブ首長国連邦でのLNG(液化天然ガス)プロジェクトなどが加わり、30年以降に次々と本格的な収益貢献を開始する。
これらの案件に加え、同社が「ミドルゲーム」と呼ぶ既存事業の強化と、今後3年間での新たな成長投資によるプラス効果で、計4000億円超の利益拡大を狙う。
三井物産が「中期経営計画2029」で示したロードマップ。投資決定済みの大型プロジェクトの多くが2030年以降に本格的な収益貢献を開始する。(同社の発表資料から引用) 拡大画像表示
ところが、新中計に対する市場の反応は芳しくなかった。新中計を発表した5月1日の同社の株価は、前日の終値から131円(2.2%)下落した。
市場から評価されなかったのは、どれだけリスク(借り入れ)を負って資本効率を高めるかというレバレッジ水準や資産配分の具体額が明確に示されなかったのが一因だ。
財務の健全性や借り入れ余力を測る指標であるネットDER(純負債資本倍率)は足元で0.47倍と抜群の健全性を誇るが、これをどこまで引き上げるのか記載はなかった。
また、資金配分を示す「マネジメント・アロケーション」についても、前中計では「新規投資と追加株主還元に1.13兆円」と明記したが、新中計の発表資料では具体額を記載しなかった。堀健一社長はアナリスト向けの説明会で金額について、「2.4兆円ぐらいになると想定している」と説明。一方、「可動型で選択肢の多いマネジメント・アロケーションを考えていく」とも述べ、経営環境に応じて金額を上下させる考えを示した。
ある証券アナリストは「現状のネットDERは低過ぎて、このままだと資本効率が悪くなるばかりだ」と一蹴する。PBR(株価純資産倍率)が上昇して自社株買いによるROEの押し上げ効果が薄れる中、「借り入れを増やして適正なレバレッジをかけるべき局面に来ている」と強調。その上で、「曖昧で何が言いたいのか分かりにくい。5年後の『あり姿』ではなく、足元の資本政策を明確に打ち出してほしかった」と断じる。
アナリスト向け説明会では、レバレッジや資金配分に関する質問が相次いだ。こうした指摘に対して、堀社長はどのように説明したのか。次ページでは、ネットDERや資金配分の具体額をあえて明示しなかった経営陣の“深謀遠慮”の訳に迫る。







